2063/05/24Sat.(2)
芝生広場にはいくつかベンチが置かれていたが、陸はいつも昼寝に使ってるベンチを選んで腰を下ろした。ベンチのほとんどは金属製であったが、このベンチだけは木製である。背もたれが一部黒く焼け焦げていたが、逆にそれがいい味を出していた。その周囲には桜の木が三本だけ不自然に生えており、新緑の葉を付けた枝がベンチを覆い影を落としている。陸は咲良が横に座ったことを確認すると、意を決したように話し出した。
「あのさ、話しておきたいことがあるんだけど、いいかな?」
「どうしたの?そんな顔して、深刻なこと?」
咲良は初めて見る陸の真剣な表情に思わず身構えた。
「実は、、、俺、前に事故に遭って、それで、、、寝たきり生活なんだよね。しかも一年以上前の記憶がないんだよ」
「ぷぷっ、冗談?だって陸くん、ちゃんと歩いてるよ」
陸の言っていることがよく理解できない様子の咲良。
「あーVRの中ではね。でも実際は障害があって歩けないんだ」
と陸は咲良の言うことを気に留めず続けた。咲良は困惑した様子で、
「えっ、VRって?どういうこと?」
「だって、ここVRの中でしょ?加地公園だよ」
陸は改めて咲良に確認するように問いかけた。すると咲良は呆れた表情で、
「陸くん、寝ぼけてる?ここは現実よ、ほら、痛いでしょ?」
と冗談交じりに言いながら陸のほっぺたを「ぎゅっ」とつねった。陸は一向にかみ合わない会話に歯痒さを覚えが、かと言って、咲良が嘘をついているようには思えなかった。むしろその言動からは咲良らしい純粋さを陸は感じていた。陸はそんな咲良に対して、
「現実?でも、前回VRで会おうって約束し・・・」
と途中まで話した後、はっとした表情になり口を噤んだ。あることを思い出したからだった。掲示板で初めて咲良と会う約束をする際、『VR内で』という前置きを書き忘れたことを。それに加え、前回陸は咲良に現実世界ことを勘繰られるのが嫌で『VR』という言葉を使うことを無意識的に避けていた。それらが原因で、自分と咲良の間にVRについて誤解が生まれていることに陸は気づいたのだった。
『私の暮らしている世界・・・』
一年前の掲示板の書き込みが陸の頭をよぎる。
そして、陸は一つの結論を導き出した。
それはあの書き込みを見た時、心の中で思ったこと。
「俺は咲良とは別の世界に生きているんじゃ・・・」
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