ペニーワイズVSベニヤ野郎

KEN

ペニーワイズVSベニヤ野郎

(雨の日、道沿いを流れていく新聞紙の船。やがて船は側溝に落ちてしまう。船の持ち主が慌てて覗き込むと、側溝の中から一人のピエロが顔を覗かせた)


「ハァーイ、ジョージィー?」

「人違いです(真顔)」

「待って待って、まだ早いよー!?」

「いや、待つも何も人違いなんで。私ジョージィーじゃないんで」

「わかった悪かったよ、名前を間違えたのは謝るから行かないで! 出番が! なくなっちゃう!」

「おお、メタいメタい」

「もう一回やり直させて! ところで名前は?」

「ベニヤ野郎」

「ベニヤ野郎!? マジで言ってるYou!?」

「何か文句が?」

「いえ、ありませんとも!」


   ◆◆◆


「ハァーイ、ベニヤやろぉー?」

「何だか腹立つし語呂が悪い」

「名前はYouのせいだろう!? 腹立てないでよ!」

「貴方のような怪しい奴に本名を明かすわけないじゃないですか」

「ど正論! そして本名じゃなかったんだねジョージィー!」

「帰ります、私ジョージィーじゃないんで」

「待って!」

「……またやり直したいと?」

「はい!」

「……仕方ありません、今度こそ間違えないように」


   ◆◆◆


「ハァーイ、ベニヤやろぉー?」


(ベニヤ野郎、無言)


「匿名コン、参加しないかい?」

「匿名短編コンテストをおすすめするペニーワイズだった」

「待って! そこは無言で首振るとこでしょ!?」

「しまった、口が滑りました。ペニーワイズがおすすめするシリーズの動画、まあまあ観てますよ」

「観てくれるのは嬉しいけど、全くもー」

「態度でかくて腹立つ」

「あーやめて! 行かないで! やり直させて!」


   ◆◆◆


「ハァーイ、ベニヤやろぉー?」


(ベニヤ野郎、無言)


「匿名コン、参加しないかい?」


(ベニヤ野郎、首を横に振る)


「えーっ。参加しようよ。応援コメント、欲しいでしょう?」

「(渡されたカンペを盗み見ながら)知らない人に応援コメントくださいってしつこく突撃しちゃいけないんです。父がそう言ってました」

「きみのお父さんは賢いねえ、ベニヤやろぉー。本当にお利口だ。ぼくはペニーワイズ。楽しいものを紹介したいピエロさ。きみはベニヤやろぉー! ほら、これで知らない人じゃなくなったよ。だろ?」

「そうですね。じゃあもう行かなくては」

「待って! これを置いていくの?」


(先程側溝に消えた船を掲げて見せる)


「あっ私のトゥアハー・デ・ダナン!」

「イーグザクトリィ(トゥア……、何だって?)。さあ……受け取りな」


(逡巡するベニヤ野郎)


「あれれ……これがほしいんだろう、ベニヤやろぉー? もちろん、応援コメントだって、欲しいよねぇ?」


(欲しそうな顔をするようカンペで指示されているのに、全くそういう顔をしないベニヤ野郎)


「匿名コンには、漫才風の作品も2ちゃんねる風の作品も、びっくりするものが何でもあるよ(オレオは上級者向けだから今は省こう)。アスナちゃんもだ! 健全なレベルのスケベだってあるよ」

「アスナちゃん、可愛いですか?」

「ああ、そうだよ。アスナちゃんは可愛いさ、ベニヤやろぉー……可愛いんだ……」 


(紙の船に手を伸ばすベニヤ野郎)


「アスナちゃんに惹かれて自分も作品作りたいなーって思ったなら……、お前も匿名コンの変態参加者だ!」


(ペニーワイズ、ベニヤ野郎の左腕を掴む)


「きゃあーー(棒読み)」

「(ナレーション風に声を変えて)ベニヤ野郎は匿名コンの沼に引きずり込まれ……」


(右手で制すベニヤ野郎)


「ちょっと待ってください、色々良いですか」

「何? 今、エンディングのナレーションしてるのに」

「いやツッコミどころ多すぎてアレなんですが」

「アレって?」

「ずばり言いましょう。貴方、匿名コン全然読んでないでしょう」

「ギクゥ」

「おすすめによくあがる中から、コメディー含んだ作品を選んで読んだ程度とみましたが」

「ギクギクゥ(だって作品数多すぎるんだもの……)」

「匿名コンの面白さはそれだけじゃありませんよ。甘酸っぱい恋愛もの、切ない別れのもの、ロマンあふれるSFもの、数え上げる事が出来ないくらいに力作があふれているんです。変わり種の作品だけしか読まないなんてもったいないですよ!」

「これは……話が長くなる予感」


   〜五時間後〜


(長時間の力説に疲れ果てたペニーワイズと、まだ話し足りない早口のベニヤ野郎。雨はいつの間にか上がり、東の空には星と月が見え始めていた)


「……とまあ、アスナちゃんの魅力は今公開されてる分だとこんな感じでしょうか。続編も随時公開していく予定です。『未来少女アスナ ~令和元年の俺の部屋に昭和84年の世界から銀ピカタイツの美少女が飛び込んできた件~』をフォローで続きが読めますからね! どうぞよろしく!」

「……もしかして、未来少女アスナの作者さんだったりします?」

「えっ今更!?」


(了)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ペニーワイズVSベニヤ野郎 KEN @KEN_pooh

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ