第26話被告アムンゼン 実験

「助けてくれ! テイル君、このままでは凍え死んでしまう。テイル君も大親友でありライバルである僕がこんなところで死ぬのは忍びないだろう? ということで、ここはひとつ……というよりも、なんでテイル君はこんな極寒の中そんな平然としていられるんだい?」


 ロリ裁判長にテレポートされた途端、サイエが先ほどまでの威勢の良さが嘘のように情けなくなった。いつもこんな感じなら、俺も友達くらいには思ってやらないでもないのが……


「それはね、サイエ検事。こんなこともあろうかと、使い捨てカイロをたっぷり準備してきたからだよ」


 俺はサイエにそう言うと、ここノルウエーにテレポートしてすぐに服の中にセットしたカイロを見せつける。


「ああ、さすがは僕がライバルと認めたテイル君だ。どうだろう、ここはひとつ好敵手同士の友好の印として、そのカイロを進呈してはもらえないだろうか」


「しかしですねえ、裁判長」


 サイエが懇願するも、俺は裁判長をちらりと見る。そんな裁判長もいつのまにか防寒対策を厚着やら何やらでしっかりしている。裁判長も裁判長でこうなることを予感していたのかもしれない。どこぞの無能検事とはえらい違いだ。


「これこれ、サイエ検事。今は裁判中で、サイエとテイルは検事と弁護士ではないか。そんな二人が物品を融通し合うなど……裁判長として見逃すわけにはいかんな」


「そんな、殺生な。ああ、あまりの寒さでなんだかもよおしてきちゃった。トイレ! この辺にトイレはないのか」


 サイエがあたりを見渡しているが、吹き荒れる雪嵐のおかげでちっとも見晴らしが効かない。さあ、どうするサイエ。


「裁判長、ここは緊急避難ということでひとつご容赦を。では失礼!」


 そう言うが早いが、サイエは離れたところへ走っていくとズボンから何かを取り出して、さらに何かをし始めた。この寒さの中でそんなことをすると……


「助けて、おしっこが出したそばから凍って……あああ、中まで凍ってきて……どうすればいいんだい。あれれ、動けなくなってきたぞ。凍ったおしっこで地面と固定されたみたいだ。これは大ピンチなんじゃないかな。テイル君、こんな僕を放っておくことは、未必の故意の殺人に当たるんじゃないかな。ほら、テイル君のカイロがあれば、この凍ったおしっこをどうにかできるんじゃあないのかな。裁判長、このさい検事と弁護士の癒着などと言うものは無視していただいてですね……」


「裁判長、検事側も十分理解されたようですし、今回はこの辺でいいんじゃないですかねえ」


「それもそうじゃな」


 なにやら顔を赤らめたロリ裁判長が俺に同意する。裁判長にまでなったのだから知識は豊富なのだろうが、ああもおしっこやや何やらといった男の下半身的なことをサイエに連呼されてはロリ裁判長のほうが恥ずかしくなったのかもしれない。すぐに、テレポートで法廷に戻ることにしたようだ。


「その前に、サイエ検事の凍ったおしっこを溶かしちゃっていいですかねえ。このままテレポートしちゃったら、地面と凍ったおしっこで固定されたサイエ検事のあそこが引きちぎれちゃいますんで」


「わかった。はようせい」


 なかば呆れたロリ裁判長に言われて、俺はサイエの元に駆け寄っていく。


「あああ、テイル君。やっぱりきてくれたんだね。やはりテイル君は僕の大親友だよ。さあ、早く僕のなにをなんとかしてくれ」


 俺もこんなことはしたくないが、サイエは仮にも検事だ。貸しを作って損することはないだろう。そう自分に言い聞かせて、俺はサイエの下の世話をする。サイエ、この貸しはデカイぞ。貴様のあれは縮こまっているがな。


「溶けた! テイル君のおかげだ。僕は自由になったぞ。さあ、裁判長、お願いします」


「言われんでも、わかっとるわ、テレポート」


 ひゅーん


 ロリ裁判長のテレポートで、俺たちは法廷に舞い戻った。そこで俺はこう主張するのだ。


「サイエ検事、極寒のノルウエーで用を足すと言うことが、どんなに恐ろしいことかわかりましたか」


「非常によくわかりました、テイル弁護士」


 よっぽどこりたのか、サイエの態度もすっかりかしこまっている。なんだか顔を赤らめているのは、さっきまで極寒の地にその身を置いていたからだろう。けして、サイエが俺に勝手に抱いている友情がそれ以上のものになったせいではないだろう。


「それでは、ああいった状況では、十分にあたためたペットボトルに放尿しないと危険ということもよくわかりましたか」


「はい、アムンゼンさんがいくら花も恥じらう乙女と言えども、あのような状況ではやむを得ないと存じます」


「では、生まれた時からあのような環境に身を置いていた被告が日本にきたからと言って、急にその習慣を変えられるでしょうか。牢屋の中と言えども、その中の人物の生活習慣には配慮が必要と思われますが」


「異議なし。被告がペットボトルにおしっこを溜め込む行為は正当なものであると認識しました」


 大変結構。これで万事解決だ。

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