第25話被告アムンゼン 裁判

「やあやあ。これはこれは大親友のテイル君ではないか。前回はトウモロコシ畑で環境問題について熱く語り合ったね。科学者と言う以上、科学が引き起こした温暖化問題と向き合わないわけにはいかないからね。思い出すなあ。夕日がさしこむトウモロコシ畑で将来について語り合ったあの時を」


 いつものようにサイエが俺に話しかけてくる。しかもいつのまにか大親友にまでランクアップしてるじゃないか。そのうえ、前回の裁判では、俺がトウモロコシから精製したアルコールでエンジンを動かしたところを見てサイエはあっけにしかとられていなかったが……サイエの中では俺と二人で激論を交わしたことになっている。さらには、勝手に夕方に時刻を変えてしまっている。サイエのポジティブさはなんなんだろうね。


「だけどね、テイル君。今回の裁判はさすがの君でも敗訴確定かな。なにせ、この近代世界でおしっこをペットボトルで溜め込むだなんて……さいわいなことに、今回の裁判での検事は僕だ。大親友であるテイル君に黒星をつけるのが僕であることに感謝するんだね。僕以外の人間に、テイル君が敗北するだなんて僕には耐えられないからね」


 俺が負けることが楽しみなのかそうでないのかどっちなんだ、こいつは。まあ、俺が負けることなんて未来永劫ありえないが。特にこのサイエには。


「それでは裁判を開始する。一同静粛に」


 ロリ裁判長がそう宣言すると、あいもかわらずサイエが張り切って口火を切る。どうせ俺にコテンパンにやられるに決まってるのに。


「裁判長、検事側は被告の一刻も早い思想強制場送りを主張します。水洗トイレが普及したこの国で、自宅は言うに及ばず牢屋でもペットボトルにおしっこ……尿を溜め込んだと言うではありませんか。はっきり言って異常です。被告には刑罰ではなく治療が必要であるのではないでしょうか」


 サイエは思想強制場に送られた人間がどんな仕打ちを受けると知っていてこんなことを言っているのだろうか。いま被告席に立っているかれんな美少女であるアムンゼンを見て何も思わないのかね。


「サイエ検事、よろしいですか」


「おお、これはこれはわが大親友のテイル君ではないか。よろしいも何もないよ。なにせここは法廷だからね。お互いに主張し合おうじゃないか。さあ、存分に意見を述べてくれたまえ」


 それにひきかえ、俺が発言した時のサイエのこの変わりようはなんなんだ。俺はお前を大親友と思ってもいないし、できることならば議論などせずにさっさと実験を終わらせて俺の勝訴を確定させたいのだ。しかし、前置きなしに実験なんてしても、誰もその意味なんてわからないだろう。特に、この何を考えているんだかちっともわからないサイエには一から十まで説明しないと理解できないだろう。というわけで、俺はやりたくもない説明をせざるをえないのだった。


「サイエ検事は被告がどこの出身であるかをご存知でしょうか」


「そんなことは当然知っているよ、テイル君。北欧のノルウエーだろう。それがどうかしたのかね」


「北欧という極寒の地では水道の水ですら凍ることをご存知ですか。それを防ぐためには、水をある程度は流しっぱなしにしなければならないということを」


「なるほど。そうなのかね、テイル君。これは勉強になった……ではなくて、それが今回の事例とどう関係があるというんだい」


「では、水道がない場所では飲み水を調達するにはどうしたら良いとお考えですか、サイエ検事」


「そんなもの、そのへんにある雪でも氷でも溶かせばいいだろう。水のもとはそこら中にあるんだから問題ないじゃないか」


 サイエの言葉を確認すると、俺は被告席にいるアムンゼンに質問をする。


「サイエ検事はそうおっしゃいましたが、そのことについて被告はどうお考えですか」


「サイエ検事が実際にノルウエーにいったことがないということはよくわかりました。実際にノルウエーの気候を体験したことがない、温室育ちのお坊ちゃんが言いそうなことだなあと……おっと、これは失礼しました」


 アムンゼンはそう謝罪したが、侮辱されたサイエはみるみるうちに顔を真っ赤にして怒り出した。まあ、アムンゼンにああ言ってサイエを怒らせるよう仕向けたのは俺だし、ああ言われてサイエが激昂するのも計算済みだ。サイエが俺と大親友というのはあながち間違いではないのかもしれない。こんなに俺の予想通りに動いてくれるんだから。


「そ、それはどういうことかね。たしかに僕はノルウエーには行ったことがないがね。しかし、ノルウエーの気候がどんなものかは本で読んで知っているよ。いいだろう。そこまでいうのなら、このサイエがノルウエーに行ってやろうではないか。裁判長、テレポートをお願いいたします」


「あ、ああ、了解だ。それでは皆のもの、集合しなさい」


 今回は俺に支持されたアムンゼンに煽られたサイエがロリ裁判長にテレポートを申し出た。いったんはそれに戸惑ったロリ裁判長がテレポートを始める。


「テレポート!」


 ひゅーん

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