第20話被告カポネ エピローグ

「テイル先生、ありがとうございました。禁酒法撤廃のニュースを見ながら飲むビールは最高でした」


 カポネを迎えに行った牢屋でポチが俺を歓迎する。そうとうに息が酒臭い。昨晩はよほどの深酒をしたのだろう。


 トウモロコシ畑での実験の後にすぐ禁酒法は撤廃された。アルコールがガソリンのかわりになると俺のおかげで発覚したら政治家の手のひら返しは早かった。


「テイル先生、それでは不詳、このポチめがご案内させていただきます。


 ポチに先導されて、俺はカポネのもとに向かう。


「やあ、テイル先生。おかげで無罪放免や。助かったで。しかも、ただの無罪放免だけじゃなくて、あたしの表舞台への転身まで実現させてくれたんだからな」


 無罪判決が出て以来、カポネはエネルギー会社を立ち上げるべく、牢屋の中でいろいろ手を回していたらしい。そんな情報は俺のコネクションからはいってくる。なにせ、禁酒法時代は酒関係のビジネスを一手に取り仕切っていたカポネだ。酒が合法になろうと、新規参入をつぶすことなどわけないだろう。


 となると、これからはカポネが燃料としてのアルコール事業をとりしきることになる。カポネがアラブの石油王みたいな大金持ちになる日も近いかもしれない。


「カポネさん。一つ質問があるんですが」


「テイル先生のお望みとあれば断るわけにはいかないなあ。一つと言わず、いくらでも聞いてちょうだいな」


「禁酒法は、そもそもカポネさんが裏で手を回して制定させたんじゃあないんですか」


 俺の問いかけに、カポネは意味ありげににやりと笑う。


「なんでそう思うのかな、テイル先生」


「カポネさんは禁酒法のおかげで財を成したと俺は考えるからですよ。酒が合法のままだったら、カポネさんはここまでもうけられなかったでしょうね。酒が違法になったからこそ、縄張り争いがマフィアの暴力戦争になり、カポネさんが天下を取った。違いますか」


「テイル先生。ビジネスコンサルタントのほうが向いてるんじゃないかな。たしかに、あたしには合法的なビジネスよりも、イリーガルなシマ争いがむいとる。なら、非合法なシノギで稼いだ方が手っ取り早いだろうね」


 カポネはさらに話し続ける。


「結果としてあたしは酒の女帝となってね、裏にも表にもパイプができたんだ。裏のお偉いさんはもちろん、表のお偉いさんもお金が大好きだからね。いやあ、ずいぶんとたかられたよ。まあ、見返りは十分にあったけどね」


「でも、逮捕されちゃいましたね、カポネさん」


「そうなんだよ。警察に頭の固い人間がいてね、金じゃあ転ばなかったんだ。なにせ、石油成金のボンボンだそうだからね。と言うよりも、すでにできあがった金持ち勢力が、新興勢力のあたしをつぶしにきたんだろうね。金持ちが自分の家族を警察に送り込んで、自分たちが吸っているうまい汁を横取りしにきたあたしを逮捕させる。あいつらマフィアのあたしよりたちが悪いわあ」


 説明を終えたカポネが俺に聞き返してくる。


「それで、テイル先生はこれからどうするのかな」


「どうもしませんよ。禁酒法を制定させたのがカポネさんだからって、それがどうしたって話ですからね。禁酒法の制定自体は正式な手続きで行われたものですからね。それにいいも悪いもありませんよ。そもそも、俺は弁護士で依頼人の利益が第一ですからね。依頼人のカポネさんの不利益になるようなことはしませんよ」


「それなら安心やな。テイル先生があたしの敵にならんで安心したわ」


 そんなことを言うカポネに、俺は確認する


「確認しますが、俺はカポネさんに貸しをひとつ作ったと言うことでいいんですよね」


「当たり前じゃん。テイル先生のおかげで無罪になって、表舞台に出られるようにもなった。テイル先生への借りは一つどころじゃないで」


「カポネさんがそう認識しているならいいんです。なにせ、俺もすでにできあがった勢力にしょっちゅうケンカ売ってるんで、いつカポネさんみたいに牢屋にいれられるかわかったものじゃないですからね。そんなときにはカポネさんのお力が役に立ちそうですし……」


 実際、俺は牢屋に入れられるなんて思っていない。なにせ、俺だからだ。だが、カポネみたいなタイプを利用するには、こうして俺自身が弱みを見せていると思わせた方がうまくいくのだ。


「そういうことなら、テイル先生とはこれからもいい関係でいられそうやな。優秀な弁護士先生とは末永いお付き合いをしていきたいからな」


「こちらこそよろしく、カポネさん。いや、カポネ社長になるのかな、それともカポネ会長だったりするのかな」


「それをテイル先生に相談しようと思っていたんだよ。裏の世界にいたときは、女帝なんて言われていたけど、それはあくまで通称だからね。これからは表舞台で正式な肩書を持つことになるんだけど、何がいいかなあ」


「それは、正式な依頼ですか、カポネさん。カポネさんを弁護したのは被疑者には弁護人を持つ権利があるからですけど、その相談内容ですと民事ですからねえ」


「友人としての相談というわけにはいかないのかい、テイル先生」


「いきません、俺もプロの弁護士ですから」


 

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