第19話被告カポネ 実験
「おお、ここはあたしのふるさとのトウモロコシ畑やないか。なつかしいなあ。ここでとれたトウモロコシでつくるバーボンは最高なんやが……」
裁判長の魔法でのテレポート先はあたり一面のトウモロコシ畑である。ここがカポネのふるさとで、カポネがここ特製のバーボンで財を成したことは調べがついている。
「テイル君。こんなところに連れてきて何をするつもりだね。カポネがふるさとだと言ったな。ということはここではアメリカ連邦法が適用されるということだな。ならば、『アメリカ国外では禁酒法は適用されませーん。だからみんなで酔っ払いましょーう』なんて子供みたいな言い訳は通じないぞ」
サイエがそう念を押してくるが、そんな子供じみた論法を俺が使うと思ってるのかね。俺にはサイエが『僕は馬鹿ですから、こんな理屈しか思いつきませーん』と自分が馬鹿であると宣言してるようにしか思えないが……
「ガリレオ君、例をここに」
「わかりました、テイル先生」
俺の指示で、ガリレオが今回の実験用マシーンを用意する。
「テイル弁護士、これはなんだね」
裁判長の質問に俺はこう答える。
「ガソリンエンジンです。正確にはその仕組みをわかりやすく見せるための模型みたいなものですが」
「テイル君、気は確かかね。そんなものをこんなところに持ち出して、火事になったらどうする気なんだね」
「落ち着いて下さい。サイエ検事。これはあくまで実験用のマシンで、ガソリンはここにはありません」
「そ、そうか。しかしだね、テイル君。ガソリンがなくては、エンジンもただの金属のかたまりではないのかね。さっき『仕組みをわかりやすく見せる』なんて言っていたが、どう見せてくれるのかね。テイル君が人力でえっちらおっちら動かしてくれるのかね」
「ガソリンはないと言いましたが、燃料がないとは言ってませんよ、サイエ検事。燃料はこれです。消毒用アルコール」
俺がそう言うと、サイエが狼狽した。
「テイル君、アルコールと言ったのかね。禁酒法違反だよ。残念だよ。これでは親友であるテイル君を僕がこの手で有罪にしなければならないではないか。たしかに、君と僕は法廷で舌戦を繰り広げていたが、それはあくまで検察官と弁護人としてだ。親友になったばかりの君を僕は検事として起訴しなければならない。なんという悲劇なんだろうか」
サイエはすっかり自分に酔っている。酒に酔っているわけではないが……それに、俺はサイエと舌戦をしていたつもりはない。いつも俺が一方的にやりこめていただけだ。
「落ち着いて下さい、サイエ検事。これは飲酒できないように添加物が加えられたうえで、消毒薬として薬局で正式に市販されているものです。裁判長、禁酒法では例外規定として、こういったことが認められているはずですが……」
「その通りだね。サイエ検事、とうぜん君も知っていたのだろう。仮にも君は検事なのだから」
「も、もちろんですよ。裁判長」
しらじらしいサイエをよそに、俺は実験を始める。
「では、このマシンにアルコールを注入しまして……プラグに点火します」
ガッションガッション
点火されたエンジンが始動する。ピストンとシリンダーの上下運動が回転運動に変換されるメカニズムは実に美しい。
「いいですか、みなさん。アルコールはこの通り燃料としても有用なのです。つまり、この畑にあるトウモロコシからアルコールを作れば、それはバイオ燃料としてガソリンの代わりになるのです。これにより、大気中の二酸化炭素濃度の増加に歯止めがかかるのです」
「それでこの僕を論破したつもりかね、テイル君。甘いよ。確かにガソリンは燃焼されていないが、かわりにそのアルコールが燃焼されているではないか。結局大気中に二酸化炭素が放出されていることに変わらないのではないかね」
サイエが俺の予想通りのいい質問をしてくれる。
「その通りですよ、サイエ検事。ですが、畑のトウモロコシが光合成で二酸化炭素を酸素に変換していることをお忘れなく。ところで、ガソリンのもとは石油ですが、石油は二酸化炭素を酸素にしますかねえ」
「そ、それはその……石油は太古の生物が由来とされていているからして……」
しどろもどろのサイエは放っておいて、俺は結論に入る。
「みなさん、地球の温暖化は深刻な問題です。しかし、いまさら石油のような化石燃料を使わない生活に戻れますか。電気の使用を辞められますか。いま、ここで代替燃料としてのバイオ燃料としてのアルコールの生産の再開を提案します」
「テイル君、燃料としてのアルコールの生産が許可されたら、飲酒も許可されると言うのは論理が飛躍しているんじゃないのかね」
サイエの言う通りだ。論理としては、バイオ燃料用アルコールが認められたから飲酒が認められることにはならない。だが、俺は禁酒法が撤廃されていると確信している。そもそも、禁酒法自体が悪法なんてのは最初からわかりきっていたことなのだ。本音ではみんな禁酒法なんてなくなってしまえばいいと思っていたのだ。しかし、一度制定したものは簡単に廃止はできない。お偉いさんのメンツがあるからだ。そこに俺がこうやって落としどころをつけてやれば……
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