第18話被告カポネ 裁判
「やあやあ、これはともに科学の進歩のために日々精進する親友のテイル君じゃないか。前回は人間の皮脂に防さび効果があることを、テイル君と、そのテイル君の親友であるこのサイエが共同発見したんだったね」
巨大なチ○コ像に押しつぶされて、大勢の人間に恥をさらした苦い思い出が、サイエの中ではそんなふうに美化されているらしい。おまけにいつのまにか俺とサイエが親友になっている。俺としては、勝負を挑んできては毎回無様にやられる相手というのは嫌いではないが……はたしてそんな関係は親友と言えるのだろうか。
「しかし、今回は負けるわけにはいかないよ、テイル君。なにせ、今回の裁判は科学の英知の証明ではなく、社会的正義の実現だからね。酒なんて違法ドラッグの密売で無実の大衆から巨万の富を巻き上げている巨悪を許すわけにはいかないからね。では、親友のテイル君。ともに健闘しようではないか。まあ今回の勝訴は僕のものだけどね」
高笑いをあげながらサイエがきびすを返して俺から去っていった。それにしても……酒を違法ドラッグとは。禁酒法が制定されるまでは、『ワインは主の血液であり、主がわれわれにくださった神聖なものである』なんてありがたがっていそうなサイエだが……法の遵守という点では検事の見本なのだろうが。
「それでは裁判を開廷する。一同静粛に」
いつものロリ裁判長が宣言する。こういったロリっ子がお酒をうんぬんするのはコンプライアンス的にまずいのかもしれないが……別に証拠として飲酒をさせるわけじゃないし、そもそも日本では子供がいけるコンビニやスーパーにお酒がところせましと売られているのだ。このくらい問題ないだろう。
「裁判長。検察側は被告が禁酒法違反で有罪であると主張します」
(さあ、テイル君。君は今回はどんな主張をしてくるんだい。僕はカポネを脱税容疑を足掛かりにして、強盗、殺人、違法賭博の有罪フルコースにするつもりだけどね。テイル君は飲酒の禁止を、基本的人権における幸福追求権の侵害にあたり、憲法違反であると主張してくるのかい。望むところだよ。『この法律は憲法違反だから無効である』なんていう違憲裁判は検事と弁護士の法廷闘争の中でも花形だからね。このエリート検事であるサイエと、親友にして好敵手であるテイル君との勝負にふさわしい舞台だ)
……なんてことをサイエは考えているのだろうか。しかし、飲酒は許可されているが、個人的な酒の密造が禁止されている日本で、個人的に楽しむ程度の酒の製造は幸福追求権も侵害であると主張して、国相手に違憲裁判を起こしたが国家権力によって敗訴に終わった『どぶろく裁判』の判例がある。
サイエの予想通りの主張をしても、国家権力によってつぶされる可能性が高い。そんな戦術をこのテイルが取るはずはないのだ。
「サイエ検事。あなたは今日この裁判所にどのようにして来ましたか」
「何だい、突然に、テイル君。もちろん、超絶高級スポーツカーだよ。乗り心地は最高だし、スピードも出る。そのうえ格好いい。どうしてもと言うのなら、親友であるテイル君を特別に助手席に乗せてやってもいいのだけれどね。親友である二人の男が仲良く海辺をドライブなんて素敵じゃないか」
サイエが普段からお気に入りの愛車を自慢して回っていることは調べがついている。今日も得意げにスポーツカーでさっそうとやってきて駐車係にキーを投げつけていたことは確認済みだ
「では、そのスポーツカーが何を動力にして走っているかはご存知ですか、サイエ検事」
「そんなことは知っているよ、テイル君。ガソリンだろう」
「弁護側は質問の意図を明確にしなさい、テイル弁護士」
裁判長が俺に注意してきたので、俺は質問の相手を裁判長に変更する。
「ところで、裁判長。最近の温暖化問題についてどう思われますか」
「そのことに関してはたいへん重大な問題だと認識しているが……」
「でしたら、その温暖化の原因はなんだとお考えですか、裁判長」
「それは、ガソリンをはじめとする石油と言った化石燃料をじゃんじゃん燃やしている結果の二酸化炭素の増加ではないのかね、テイル弁護士。ちなみに、サイエ検事。個人の趣味に干渉する気はないが、このご時世にあんなスポーツカーを乗り回して排気ガスをまき散らすのは文明人としてどうかと思うがのう」
裁判長にたしなめられて、サイエがしょんぼりしている。そんなサイエをよそに、裁判長が俺に確認してくる。
「ところで、この裁判は被告であるカポネの脱税についてのものではなかったのかね、テイル弁護士。そろそろ本題に入ってもいいのではないのかね」
「はい、裁判長。今回も弁護側は実験の手はずをととのえてあります。そこで、裁判長のテレポートをお願いしたいのですが……」
「いいだろう。それでは皆の者集まりなさい。それでは……テレポート!」
ひゅーん
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