第16話被告カポネ プロローグ
「テイル先生。今回はテイル先生が弁護を担当しなくても良いと思うんですけれども……」
ポチが青ざめた表情でそんなことを言ってくる。牢屋の中に入っている人物に相当恐れをなしているようだ。
「なにせ、マフィアの大親分ですからね。テイル先生が弁護しなくても、いくらでも腕利きの弁護士がお金目当てで弁護をしますよ。いや、お抱えの弁護士の二、三十人はいてもおかしくないですね」
「それがそうもいかないんだ、ポチ。なにせ、そのマフィアの大親分からの直々のご指名だからね。『おたくのガリレオちゃん。かわいいなあ。どこそこの店で買ったパンツとブラジャーよう似合っとたで』なんて言われちゃあね」
「すいません、テイル先生。わたしが脅迫のネタになっちゃって」
「いいんだよ、ガリレオ君。ガリレオ君がいなかったらいないで別のネタで脅迫されていただろうからね。それにしても、パンツとブラジャーかあ。アシスタントの福利厚生には気を使っているつもりだったけれど……女性の下着となるとなあ……ガリレオ君、不満があったら遠慮なく言ってくれたまえ。優秀なアシスタントの仕事環境をととのえることも俺の大事な仕事だからね」
「い、いえ、わたしはテイル先生のアシスタント環境に不満があるわけじゃあ……パンツやブラジャーを購入したのは仕事環境とは別の目的でして……」
俺の言葉にガリレオは口をもごもごさせている。カポネに下着の購入を脅迫材料にされたことがよほど恥ずかしかったのだろう。それにしてもガリレオ君に似合うパンツやブラジャーとは……これはなかなかの難問だ。実に好奇心を刺激する。
「それで、ポチ。カポネの容疑は」
「逮捕理由は脱税ですがね。検察の目的はそんなチンケなものじゃないですよ。なにせ、禁酒法がしかれたアメリカで酒の密売を一手に仕切っていたんですからね。これはもうかりますよ。そのビッグマネーで、警察にも手を回してやりたい放題みたいですからね」
「ほう、ポチもいくらかもらったのかな」
「見そこわないでください、テイル先生。恥ずかしながら、このポチ、警察官になったその日からお金で魂は売らないと心に決めていますから。ただ、カポネのセクシーダイナマイトなオッパイさんやおしりさんをチラチラ見せられて、入浴時間に融通をきかせたり、就寝時間をサービスしたりはしましたけど」
ポチはしっかりカポネの色仕掛けで落とされたらしい。だが、そのくらいのほうが多額の金品を提供されて警察の裏事情をペラペラしゃべらないだろうからいいのかもしれない。
「しかし、お酒かあ。懐かしいなあ。風呂上がりのビール。さわやかな目覚めと同時の迎え酒。休日に昼間に競馬見ながらのカップ酒。心地よい眠りのためのウイスキー。それがみんな違法とされたんだからなあ。そりゃあ、お酒で迷惑が起きているのも事実だけど……それは人が悪いんであって、お酒が悪いんじゃあないのに」
今は違法となったお酒の味をポチは思い出しているようである。まあ、俺は家がカナダとの国境すぐ近くにあるから飲みたくなったら散歩がてらカナダに一杯やりにいくのだが……
「カポネときたら、お酒の製造、流通、販売の全てを取り仕切っていますからね。最近では酒場の運営つながりで、ギャンブルや女の子のあっせんまでやってるくらいで……もう闇の女帝なんて呼ばれてるんですよ。正直なところ、いつ脱獄されるんじゃないかとヒヤヒヤしてるんですよ」
「カポネの脱獄よりも、カポネの手下が親分の手助けのために牢屋に入ろうとする確率が高いだろうね、ポチ。なにせ、相手はマフィアだろう。犯罪なんて屁とも思わないだろうし、ムショ帰りなんて勲章みたいに思ってる連中だからね。牢屋に入って親分と一心同体なんて苦労のうちにはならないだろうさ。ということで、心配するなら仕事が増えておおわらわになるほうを心配したほうがいいだろうね」
「それはそれで困るなあ。九時五時の残業なし週休二日有給たっぷり福利厚生しっかり親方日の丸の超絶ホワイトだからこの仕事についたのに」
余計な仕事が増えることを嫌がっているポチの様子は小役人そのものだ。そんなポチに俺は言ってやる。
「カポネの手下かあ。クールビューティーな殺し屋。インテリジェンスあふれる経理担当。親分に心酔している純情娘。読心術の天才である凄腕女ギャンブラー。きっと魅力的な女の子ばっかりなんだろうなあ。そんな女の子の牢屋係なんて、大変だろうね。ポチ」
「そ、それはそれで困るなあ、テイル先生。どうしましょう」
デレデレしているポチの様子はすけべな少年の見本といった感じだ。
「それでは、その闇の女帝のカポネ様との面会といきますか。いこうか、ガリレオ君」
「おともします、テイル先生」
カポネの元に向かう俺とガリレオの二人を、ポチが見送っている。
「ご武運を祈ります。テイル先生、ガリレオさん」
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