第15話被告カポネ イントロ実験
「ガリレオ君。ここにワインがある。近所のお店で買ってきたものだ」
「わ、素敵。ワインで一杯やるんですか、テイル先生。わたし、お酒大好きです」
「飲むわけじゃない。飲酒をするとなると、『この登場人物は二十歳を超えています』なんて注意書きをしなければならないからな。そのあたりが面倒なんだ」
「それはわかりますけれど……飲まないんだったらワインでなにをするんですか」
「それは、蒸留の実験だ。ガリレオ君は中学校で蒸留の実験をしたことがあるかね」
「ありますけど……『水となんだか長ったらしい名前の液体薬品を混ぜ合わせて、その液体を沸騰させてできた蒸気を冷やしてまた液体にしたら分離できましたね。わあすごい』って実験だったような気が……でもそれがなんの役に立つんだって思いました」
「いや、蒸留はたいへん役に立つんだよ、ガリレオ君。だが、ガリレオ君のその感想ももっともだ。なぜなら、水となんだか長ったらしい名前の液体薬品と言われても、たいていの中学生にはピンとこないからだ」
「はい、その通りでした、テイル先生」
「そこで、このワインだ。まずこのワインをガスバーナーで沸騰させる。水ならば大体百度で沸騰するが、ワインはそれよりも低い温度で沸騰する。なぜなら、ワインに含まれているエチルアルコールは水より沸点が低いからだ」
「へえ、ワインのアルコールですか。なんだか、わたしがぜん興味が出てきました」
「そうだろうそうだろう。法を破ることに興味深々な中学生ならなおさらだろうね。未成年の飲酒と言うだけで、『因数分解がなんの役に立つんだよ』なんて言う悪ぶりたい年頃の中学生を刺激しちゃうからね」
「二十歳以上のわたしもおおいに興味があります」
「そして、沸騰して発生した蒸気を冷やして液体にする。何段階かにわけるんだよ、ガリレオ君」
「了解です。テイル先生……できました」
「いいだろう。では、その液体がなんであるかを確かめるとしよう。というわけで、一杯やろうじゃないか、ガリレオ君」
「えええ、いいんですか。さきほど未成年の飲酒がどうとかおっしゃってましたけど」
「問題ない。俺もガリレオ君も二十歳を超えているからね。問題があるとすれば、科学的に未知の物質の特定に味見という方法は危険だと言うことだ。なにせ、世の中にはペロリと舐めただけであの世行きになる危険な毒物がたくさんあるからね。だが、今回は元がワインだから平気だ。さあガリレオ君、じゃんじゃんやろう。まずは、沸騰の最後の蒸気を冷やした液体からだ」
「はい、テイル先生」
ゴクリ
「どうだね、ガリレオ君」
「これは……おいしいお水です、テイル先生」
「そうだろうな。俺もそうなるだろうと思ってた。だが、予測があっているかどうかを確認するのは非常に大切なことだ。では、真ん中あたりのものをやってくれたまえ、ガリレオ君」
「了解です、テイル先生」
ゴクリ
「今度はどうだね、ガリレオ君」
「あ、いい感じのワインです。多分、元のワインをそのまま飲んでもこんな感じの味わいだと思います」
「そうだろうともそうだろうとも。では、いよいよ最後だよ、ガリレオ君。沸騰し始めたころの蒸気を冷やしたものだ。さあ、一気にやってくれ」
「はい、テイル先生」
ゴクリ
「テイル先生、これ、キッツイです。ガツンときます。これ、強いお酒じゃないんですか」
「やはりそうなったか。沸騰しだした頃は、主に沸点が水より低いエチルアルコールが蒸気となっている。それを冷やして液体にすれば、アルコール度数の高いお酒の出来上がりとなるんだよ。どうだい、ガリレオ君。蒸留は役に立つかい」
「おおいに世の中の役に立つと思います、テイル先生。こんなにおいしいお酒を作りだすんですから、ヒック」
「これだから日本の義務教育はダメなんだ。蒸留を教えるのはいい。蒸留はこんなにも実用的なんだからな。だが、その方法がダメだ。蒸留を教えるのなら、なぜその主な目的である蒸留酒の作り方を説明しないんだ」
「そうだそうだ、ウイー」
「俺が思うに、これは上級国民の陰謀だね。上級国民の子弟が通うような幼稚園から大学までエスカレーターでいけるようなおぼっちゃま私立校ではこういった楽しい学問を教えていると俺はにらんでるんだ」
「わたしもそう思います、ウイック」
「で、貧乏人が通う公立高ではつまらないことをつまらなく教えてるんだよ。これは、上級国民の命令を忠実にこなすような兵隊を育成することが目的だろうからね。教えられたことをなんの疑いもなくやるようなソルジャーを選別しているんだよ」
「異議なし、ヒエッヒエッヒエッ」
「だから公立高では本当に優秀な人材ができないようにシステムを作り上げてるんだ。そんな人材が出てきたら、上級国民が美味しい思いをしているこの社会のシステムが変革されないからね。具体的に言うと、優秀な人間は、かけっこが早いだけの人間にいじめられるような学校になってるんだ。生徒も、教師もそんな学校システムを作り上げてるんだよ。結果、貧乏だけど優秀な人間は出る杭として打たれてしまうんだ。嘆かわしい世の中だよ、全く」
「テイル先生バンザーイ、あコリャコリャと」
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