第12話被告ウタマロ 実験

「しかし、実際にこの目で見ると、これは何というか……」


 裁判長がその幼い顔でチ○コ様を興味深そうに見ている。


「まったく、なんという下品なしろものだ。こんなもの、個人的には一刻も早く破壊すべきだが、現地の人間の信仰心を考慮して立ち入り禁止で済ませるという国が温情を示したというのに……その立ち入り禁止すら不当だとは……調子に乗るのもいい加減にしてもらいたいものだな」


 サイエがそんなことを言いながら呆れている。その呆れ顔がもうすぐ敗北に打ちひしがれるのだからたまらない。


「ガリレオ君、例のものをここに」


「はい、わかりました、テイル先生」


 俺に指示されたガリレオが二台の映写機を運んでくる。ウタマロとの面会の後で、今回の裁判での実験で必要になるからと俺のコネクションを駆使して用意させた研究室でガリレオに作らせたものだ。十分な設備の中で、ガリレオは大変いい仕事をしてくれた。その映写機の正体を不思議に思った裁判長が質問してくる。


「それはなんだね、テイル弁護士」


「これは、タイムムービーマシンです。対象物がこの先の未来どうなるかを空間に投影できるのです。早送り機能も搭載されております」


「ほう、テイル君。それはすばらしい発明じゃないか。二台あるということは、立ち入り禁止した場合としない場合の比較をするつもりなんだな。いいじゃないか、比較対照実験は科学の基本だからな。まあ、立ち入り禁止をしなかった場合があっという間に崩れ落ちるに決まっているがな」


 比較をしようとしたこちらの意図を、サイエが的確に言い当ててくる。実に優秀だ。その優秀な脳みそで予測した未来が、現実に起こる未来と正反対なのはこっけいなことこのうえないが。


「そういうことです。裁判長、実験の許可を弁護側を主張します」


「いいだろう。存分にやりたまえ」


 俺の依頼を裁判長がこころよく認める。ショータイムの始まりだ。


「ではガリレオ君、よろしく頼む」


「了解です、テイル先生」


 俺の命令でガリレオが二台のタイムムービーマシンを作動させる。それまで何もなかった空間に、二本のチ○コ様が映し出される。


「このような下品な見世物、見るに耐えないね。テイル君。さっさと早送りをしないかね」


「サイエ検事の言う通りじゃないのかね。裁判長としても、ああ言ったものを長時間見せられるのは道徳的に反すると言うか……」


「なんや、どいつもこいつもええこちゃんぶりおってからに。一本しかなかったチ○コ様が三本のなったんやで。奇跡だと感動するならいざ知らず、なに知識人ぶっとるねん。テイルのあんちゃん。そんなやつらの言うこと聞く必要はないで。なんならずっとそのままにしてもらっとってもええくらいや」


 ごく理性的な反応を見せるサイエと裁判長に対して、ウタマロが文句を言う。だが、このままではらちがあかないので、俺はガリレオに指示をする。


「ガリレオ君、早送りしてくれる」


「はい、テイル先生」


「あ、なにをするんや、もったいない」


 残念がるウタマロをよそに、二本のチ○コ様の映像が早回しになる。一方のチ○コ様には無邪気な子供や仲の良いカップル、さらには熟年夫婦が抱きついたりしてチ○コ様への信仰を示している。もう片方のチ○コ様には誰も寄り付かず、風雨にさらされている。


「くだらない。あっちの未開人がじゃれついている方が早く倒れるに決まってるじゃないか。こっちのほうも時間の問題だろうがね。さびないありがたい御神体だかなんだか知らないが、どうせだれかがこっそり細工していたんだろう。立ち入り禁止になってその細工がされなくなったら、そんな迷信へでまかせだと証明されるのさ」


 サイエがそんなご高説をたれながら、誰も寄り付いていないほうのチ○コ様へと近づいていく。


「あの、サイエ検事……危ないと思うのですが」


「ご忠告は感謝するがね、テイル君。倒れるとしたら、あちらの蛮族がうごめいている方だとさっき言ったじゃないか。何が危ないもんか。何が御神体だ、こんなもの……うわあ、助けて」


 俺の忠告を無視したサイエが誰も近づいていない方へのチ○コ様へ近づいた途端、そのチ○コ様が倒壊した。幸いなことに空間に投影された映像だからサイエに怪我はないだろう。だが、雄々しくそびえ立っていたチ○コ様にのしかかられてあわてるサイエの姿は大変愉快だった。それを見ていた現地のチ○コ信仰に厚い方々は『罰当たりもんが』と言った表情をしている。 


「なぜだ! どうしてだ! こんなことは科学的にあり得ない!」


 映像のチ○コ様に押しつぶされたサイエがそうわめいていると、裁判長も不思議そうに質問してくる。


「サイエ検事の言う通りだ。実に不思議だ。立ち入り禁止にさせた方が早く倒れて、子供達のやりたい放題にさせていた方はまだそびえ立っている。一体どう言うことなのだ、テイル弁護士」


「それはですね……」

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