第8話被告ウタマロ イントロ実験

「ガリレオ君。これはなんだね」


「これは……鉄の釘じゃないんですか、テイル先生」


「ご名答。それでは、この鉄の釘を湿った場所に数日間放置するとどうなると思うかね」


「さびるんじゃないですか」


「その通りだ、ガリレオ君。ここに湿った場所に数日間放置した鉄の釘がある。どうだい、見事な赤さびだろう」


「そうですね、さわったら、今にもボロボロと崩れ落ちそうです。これじゃ、釘としての役目を果たせそうもありませんね」


「だから、さびるのを防ぐためにコーティングしたり、そもそもさびないステンレスが発明されたんだよ。ステンは英語で『さび』という意味で、それがレスだからさびない金属というわけだね」


「ステンレスってそういう意味だったんですか、テイル先生。ステンレスという言葉は聞いたことはありましたけど、ステンがさびという意味だったなんて初めて知りました」


「それではガリレオ君。さびるとは化学的にはどんな現象なのか説明できるかね」


「できません、テイル先生」


「『無知の知』だね、ガリレオ君。いいだろう。説明してあげよう。簡単に言うと、鉄が空気中の酸素と結びついて酸化鉄となることだ。この酸化鉄というのは鉄に比べてもろい。だからさびた鉄の釘は役に立たないのだ」


「さびるということは、空気中の酸素と結びつくことなんですか、テイル先生。でも、だったらどうして乾燥した場所より湿った場所でさびはよくできるんでしょうか。空気中との酸素との反応がさびるということなんでしたら、乾燥した場所でも鉄の釘はさびそうな気がするんですが……」


「大変良い質問だ、ガリレオ君。その答えは、鉄が酸素と結びつくのにはきっかけが必要となるからだ」


「前回、わたしが牢屋に入れられたことがきっかけで、テイル先生とわたしが出会ったみたいなことですか」


「そういうことだ。そのきっかけの一つが水だ。水があることで、鉄と酸素が結びつきやすくなって鉄がさびてしまうわけだ。さびの防止には乾燥が大事ということだ」


「なるほど」


「それ以外にも熱するという方法がある。鉄を熱くすることで、空気中の酸素と結びつきやすくするわけだ」


「テイル先生、だとしたら、鉄製のフライパンを火で熱したらさびることになりませんか」


「それがそうはならないんだよ、ガリレオ君。さびは酸素と鉄の化学反応だと説明したが、それは酸素と鉄が触れ合う必要がある。フライパンみたいな鉄の塊がちょっと火で熱せられたくらいでは、さびるきっかけとしては不十分なんだ」


「ふむふむ」


「ところが、フライパンだとイメージしにくいから鉄球を想像してくれ、ガリレオ君。鉄球を半分に切断すると、その切断面だけ空気中の酸素と触れ合う部分が多くなることはわかるね」


「はい、テイル先生」


「ということは、その分だけさびやすくなるということだ。ここで、鉄球だけでなく鉄の粉を考えてもらおう、ガリレオ君。鉄の粉だから、当然空気中の酸素とはおおいに触れ合っていることになる。当然さびることになる」


「ほほお」


「ところでだね、錆びる時に熱が発生するんだ。酸化鉄というんだけどね」


「え、じゃあ、釘が錆びる時に家事になっちゃったりしないんですか」


「そこまで大きな熱量が発生するわけじゃないから大丈夫だ、ガリレオ君。どのくらいの熱量かというと、寒い冬にふところにあるとあったかくってうれしいな、というくらいだ。つまり使い捨てカイロだな。使い捨てカイロは、鉄が酸化するときに発生する参加熱を利用したものなんだな」


「そうだったんですか、勉強になります」


「ちなみに、さびは酸化鉄のことだが、酸化する時に熱が発生するのはなにも鉄に限ったことではない。アルミニウムでもマグネシウムでも、その粉を熱すれば、酸化が促進されて熱や光が発生する。これをテルミット反応と言うんだ」


「なんだか難しい言葉が出てきて、わたし混乱しています、テイル先生」


「難しく考えることはない、ガリレオ君。つまりは花火だ。夜の空をいろどるあの色鮮やかな花火は、さまざまな金属の粉を火で熱することにより、あんなにきれいなものになっているんだ」


「それはすてきですね、テイル先生」


「だろう、ではさっそく実験だ、ガリレオ君。ここのアルミニウムとマグネシウムの粉がある」


「あの、実験って……花火はたいへん危険で、家庭用の花火でも『大人といっしょにやりましょうね』なんて注意書きがされてたり、大掛かりな打ち上げ花火になると、危険物取扱の免許は必要だったりすると思うんですけれども」


「心配ないよ、ガリレオ君。ここは異世界だからな。そんなどこぞの世界の法律なんてv知ったことではないのだよ。それでは実験開始だ。点火準備オッケー。カウントダウン開始。三、二、一」


「テイル先生、もういやな予感しかしないんですが……」


ドカーン

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