第7話被告ガリレオ 解説
「冒頭のスタジオ実験に引き続き、最後のスタジオ解説です。冒頭と同様に、わたしことガリレオとテイル先生が行わせていただきます。それにしても、テイル先生。日食ってすごいですねえ。あたし、話には聞いていましたけど、実際に目にするのは初めてで……もうなんと言ったらいいか。とにかくすごいインパクトでした」
「それはよかったね、ガリレオ君。いくら本で物事を知った気になっても、実際に体験しないとそれは経験とは言えないからね。『賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ』なんて言葉があるが、俺にしてみればそんな言葉は、頭でっかちの現場を知らない研究室に閉じこもってばかりの自称インテリのざれごとに過ぎないとしか思えないけどね。何事も実際にやってみないと、それは本物の知識と言えないよ」
「それにしても、計算した結果、何月何日何時何分何秒にどこそこで日食が起こるってわかってるわたしでもあんなに驚いちゃったんだから、それができなかった昔の人は日食を見たらそれはもう驚いたでしょうねえ」
「正確には皆既日食だな。今回みたいに、月が太陽の全てを覆い隠すことを皆既日食と言い、太陽が一部分しか隠れないことを部分日食というのだよ、ガリレオ君」
「なるほど、勉強になります、テイル先生。ところで、皆既日食が言い伝えとして伝えられているとのことでしたけれど、具体的にはどんな言い伝えがあるんですか」
「言い伝えというよりも、物語として先祖代々伝わっていたという感じかな。何年前のあそこで太陽が姿を隠したなんて記録よりも、ストーリー仕立てにした方が記憶には残りやすいからね」
「それで、どんなストーリーが世界にはあるんですか」
「日本の古事記の天の岩戸のお話なんてまさにそうだね。
「そんなことになったら大変じゃないですか、それでどうなったんですか」
「それはね、ガリレオ君。天の岩戸の前で大勢の神様が飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎをして、それが気になって岩戸から顔を出した天照大神さまを鏡に映して、『これは誰じゃ』なんて身をより出した天照大神さまを無理やり引っ張り出したということになったんだね」
「どんちゃん騒ぎですか。どんなものだったんですか、テイル先生」
「それはその……」
「アメノウズメって言う踊り子さんが裸踊りをしたんでしょう。それくらいわたしも知ってますよ。なんで言葉を濁したんですか、テイル先生。本番中はあんなにクールで、わたしに『思想強制場でされる奴隷扱いと言うのはどんなものなんだろうねえ』なんておっしゃっていたのに」
「ちなみにね、歴史上の記述で、この国とあの国が戦争していた時に昼間なのに突然姿を隠して真っ暗になっちゃたものだから、両方の軍がパニックになって戦争どころじゃなくなったってことが書かれているんだよ。地球や月の公転軌道を計算すれば未来の日食を予言できるけれど、逆に言えば過去のいつに日食が起こったかってこともわかるってことだからね。それで、その戦争はこの時点のこのあたりで行われていなんだなってことが確認できるんだ」
「未来のわたしはテイル先生のアシスタントになるみたいですけれど、過去のわたしは牢屋で警察という権力の犬であるポチさんにどんな仕打ちを受けていたんでしょうねえ。気になりませんか、テイル先生」
「と、ところで日食があれば月食もあるんだよ、ガリレオ君。月食は、太陽の光を地球が隠すものだね。一晩で満月が欠けていって新月みたいになり、また満月に戻る皆既月食もそれはそれで風情があるんだけど……こちらは皆既日食と違って象徴的な言い伝えがあるわけじゃないんだよなあ。なにせ、月はだいたい一月周期で満ち欠けするから、その月が一晩のうちに見えなくなったとしても、皆既日食ほどのインパクトを昔の人は感じなかったんだろうね」
「そうかもしれませんね、テイル先生」
「そもそも、月食は太陽、地球、月がこの順番で一直線にならないと起こらない。となると、満月の夜にしか起こらないんだが、月が皆既月食で見えなくなったとしても、もともと夜で真っ暗だからね。まっ昼間に太陽が姿を隠して、空が暗くなる皆既日食ほど衝撃的ではないだろうさ」
「それにしても、月の満ち欠けが一月周期ですか。すごい偶然ですね、テイル先生」
「何を言うんだい、ガリレオ君。偶然なんかじゃないよ。月が満ち欠けして元に戻る周期を昔の人が一ヶ月と定めたんだ。偶然月の満ち欠けの周期が一ヶ月なんじゃなくて、月が大体二十八日で満ち欠けするからそれを一月と数えるようになったんだよ」
「なるほど、ところで、あたしのような女性にも一ヶ月周期で起こる現象があるんですけれど、ガリレオ先生はそんな女体の神秘に興味ありませんか?」
「!!!」
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