第6話被告ガリレオ エピローグ
「感動しました。テイル先生。自分が子供の頃に聞いた昔話が本当に起こったことだなんて。それにしてもテイル先生もお人が悪いや。無罪判決を勝ち取っちゃうなんて。最初からそのつもりだったんでしょう。それなのに、『警察がクロとにらんだんだから、有罪に決まってる』だなんて。すっかりその気になっちゃいましたよ。あ、申し遅れました、自分、ポチと申します。これからは、テイル先生のことを心の師匠と思わせていただきます」
俺の言った通りに日食が起こり、ガリレオは無罪となった。その場で釈放となっても良かったのだが、ガリレオの私物が牢屋にあるそうでこうしてポチのところに再度来ることになった。
「それにしても、すいません、ガリレオさん。牢屋の中に閉じ込めてしまって」
「いいんですよ。ポチさんも上の命令には逆らえないんだろうし。それよりも、日食が発生する時刻の予測計算を牢屋の壁中に書き散らしちゃったんだけど、平気ですかねえ」
「そんなの、ぜんぜん大丈夫ですよ、ガリレオさん。むしろ、偉大な歴史遺産として永久保存にするべきものです」
ガリレオとポチが笑いながら話をしている。ポチが逆らえない囚人にいやらしいことをするような悪徳警官でなくて本当に良かった。ポチは善良で無能だが、悪人ではなかったのだ。そんなポチが俺を慕うとなれば、警察に協力者がいることになるのでこれからの俺の仕事がしやすくなるだろう。
「それで、ガリレオ君はこれからいったいどうするの。晴れて無罪になったんだから、国に賠償請求するなりなんなりできるんじゃないの?」
「その賠償金請求の裁判をテイル先生はやってくださるんですか?」
「いや、俺はあくまで九十九パーセント有罪になる刑事裁判で無罪を勝ち取る事が専門の弁護士だからね。それも、今の世の中で非科学的と切り捨てられる民間伝承や噂話を科学的に証明する事が目的かな。ということで、賠償金となると民事裁判で専門外だからなあ。なんなら、ほかにいい弁護士紹介するよ。こんな国からがっぽり賠償金もぎ取れる勝訴確定のおいしい案件をやりたがる弁護士なんていくらでもいるだろうから」
俺の説明を聞くと、ガリレオは賠償金なんて興味がないという感じで答えた。
「テイル先生が担当してくださらないんでしたら、わたしそんな民事裁判なんてしたくありません。それよりも、科学的な証明となると有能な計算担当係が必要じゃないんですか」
「計算係ならいらないかな」
「そ、そうですよね。テイル先生くらい優秀な人だったら、アシスタントなんていりませんよね」
しょんぼりしているガリレオに俺はこう言ってやる。
「ただ計算するだけのアシスタントなら必要ない。でも、地球と太陽の間の引力が距離の二乗に反比例する力があるという仮定から、地球の楕円軌道を短時間で導き出せる有能なアシスタントならおおいに必要だ」
「そ、それってあたしのことですか、テイル先生」
「少なくとも、あんな短時間であれだけエレガントな証明を完成させられる人間を俺はほかに知らない」
俺の言葉にガリレオは顔を輝かせる。
「言っておくけどな、ガリレオ君。アシスタント代なんてそうは出せないぞ。刑事裁判の、それも誰もやりたがらずない国選弁護人の報酬なんて雀の涙なんだからな」
「そんな、報酬なんて問題ありませんよ。テイル先生とご一緒させていただいて、科学的な好奇心を満たせるのに。さらに『給料も払えだ』なんてことを言うごうつくばりにわたしが見えるんですか」
「いや、そのこころざしはりっぱだけどね、『報酬なんて問題ない』と言うのはそれはそれで問題だよ。今回は、裁判長のテレポート魔法だけで済んだけれど、裁判での無罪証明のための実験で検事や傍聴席をあっと言わせるためにはなんやかんや先立つ物が必要なんだから」
「それもそうですね。科学者がお金に無頓着でいいなんて言うのはわたしが未熟だったからでした。失礼しました、テイル先生」
「報酬イコールお金ってのも短絡的だけれどね」
「ど、どういうことですか」
「それはね、ガリレオ君。俺が無罪にしたことを恩義に感じてくれている人間が少なからずいてね、そんな人間は俺の頼みならいろいろ骨を折ってくれるんだなあ。もちろん、お金という場合もあるけどね、人間が他の人のためにできることはそれだけじゃないんだなあ。権力とか、地位とかね」
「な、なるほど」
「というわけで、俺には普通の人が入れないような場所に入れるようにしてくれる権力者の助けがあるし、普通に人が会えないような人に会えるようにしてくれる地位を持った人の助けもあるんだ」
「そ、それはすごいですね」
「美しい証明をできる人の助けも期待できるようになったしね」
「もう、テイル先生の意地悪」
「それじゃあ、しっかりアシスタントを頼むよ、ガリレオ君」
「わかりました、テイル先生」
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