第4話被告ガリレオ 裁判

「それでは、裁判を開廷します。みなさん裁判長であるあたしの指示に従うように」


 幼女のくせに言葉づかいがやたら偉そうな裁判長がそう宣言した。裁判開始である。


「裁判長! 検察側は被告の思想強制場送りを主張します。太陽が姿を隠すなんて非科学的な主張をする人間は一刻も早くその思想を強制されるべきです。太陽が姿を隠す? ナンセンスもはなはだしい。あの神々しい核融合の光を放つ太陽が姿を隠すなどありえません。それとも悪魔が太陽を覆い隠すとでもいうのでしょうか。被告は現代の魔女と言えるのではないでしょうか。おっと失礼。今の発言は非科学的でした」


 裁判が始まると同時にこんなことを言い出したのは、もうすぐ俺に論破される検事である。いまにも『世の中に科学で証明できないことはない』なんて言い出しそうな科学的権威を信じ切ってそうな顔をしている。


「裁判長、弁護側が発言します。検察は、太陽が姿を隠すと言う言い伝えが赤道近くの熱帯地方に多く、高緯度になるにつれてその数が減っていくと言うことをご存知でしょうか」


「もちろん知っていますよ。弁護士さん。見慣れない顔だが、このサイエ検事に挑むとはいい度胸だ。その度胸に免じて名前ぐらいは覚えてやろう」


 サイエが偉そうに踏ん反り返って俺の名前を聞いてくる。その自信満々の顔がもうすぐ悔しさでくしゃくしゃになるかと思うと、今からゾクゾクしてくる。


「それはどうも、サイエ検事。自分はテイルと言います。では、その理由をサイエ検事はどうお考えでしょうか」


「テイル君かね。じゃあ答えてやるがね、それは熱帯地方の民族の発展が遅れていたからだよ。いや、誤解しないで欲しいのだが、僕は民族的な優劣を言っているのではない。生きるだけで大変な北国では、生きるために様々な知恵をしぼらなければならないだろう。結果、北国では文明が発展する。逆に、いくらでも生えている果物を食べていれば生きていける南国では、生きるために知恵をしぼる必要がない。結果、南国は発展途上国となったわけだ」


 『民族的な優劣を言うのではない』なんてサイエは言いっているが、その顔には『俺様は優良人種なんだぜ』と言う雰囲気がプンプン漂っている。世界が世界なら、黒人を大いに差別する白人であったことは間違いない。


「となるとだね、テイル君。そんな未開の地である南国では太陽が姿を隠すなんておとぎ話が最近まで信じられていて、文明が進歩した北国では迷信が捨て去られたのは当たり前ではないのかね。そういうわけで、赤道近くではそんな夢物語が数多く発見されることになるんじゃないかね」


「なるほど、検察側の言い分はよくわかりました」


 俺がそう言うと、サイエは満足そうにうなずいた。これからどうなるとも知らずに。


「裁判長、弁護側はただいまから十分後に、世界のこの地点で太陽が姿を隠すと主張します」


 俺がやおらとりだした世界地図の赤道付近を指し示しながらそう言うと、サイエは驚いて目を丸くした。


「ちっともわかっていないではないか、テイル君」


「いいえ、サイエ検事。自分がわかったと言うのは、サイエ検事の主張がどう言った内容かということで、その内容が正しいか正しくないかと言うことではないのです」


「弁護側は発言内容を理解しているのかね。その発言は弁護人である君自身が思想強制場の送られるに値するものなんですよ」


 裁判長がそう言うと、サイエもそれに続く。


「そ、そうだそうだ。この僕がテイル君を起訴して有罪にしてやる。せめてものたむけだ。光栄に思うがいい」


「裁判長。この裁判は被告が有罪か無罪かを決める裁判です。そのために被告の発言をお許し願います」


 サイエの言葉には耳を貸さずに、俺は裁判長に申し出た。


「いいでしょう、許可しましょう。被告は発言を」


「はい、裁判長。わたしガリレオは、太陽が姿を隠すことは科学的に起こり得ると主張します」


 ガリレオの主張に、サイエは大慌てになった。


「ひ、被告は正気なのかね。裁判中にそんなことを言って、思想強制場送りが怖くないのかね。この場で主張を撤回すれば、執行猶予確実なんだぞ。テイル君、君は被告を減刑させるつもりはないのかね」


「減刑? とんでもない、サイエ検事。自分は被告を無罪にさせるつもりなんですから」


 俺の言葉にサイエは顔面蒼白になって口から泡を吹き出している。


「裁判長、弁護側は現地での実地検分を求めます。あと五分ですからはやく決断してください」


 俺はそう裁判長に主張した。すると、裁判長は俺にこう聞いてきた。


「もし、そこで太陽が姿を隠さなかったら、君がどうなるかは覚悟しているのかね、テイル弁護士」


「はい。十分覚悟しております、裁判長」


「それではこれより実地検分を行います。弁護側も検察側も、そして傍聴席のみなさんもあたしの近くに集まりなさい」


 裁判長にそう言われて、俺も含めたこの場の一同が裁判長のところに集合した。


「テレポート!」


 ひゅいーん

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