第3話被告ガリレオ 面会
俺はガリレオが入れられている牢屋に案内された。牢屋の中では何日も閉じ込められていたであろうガリレオが小汚い格好で何やら計算している。
「なんですか、弁護士ですか。だったらいりませんよ。どうせ『罪を認めろ。そうすれば執行猶予で済む』なんてわたしを説得する気なんでしょう。ですけど、わたしは説得なんてされません。自分の主張を曲げるくらいなら、わたしは死を選びます」
「いや、ガリレオさん。非科学的な迷信を主張をしただけで死刑になんてなりませんよ。でも、いいんですかねえ、思想強制場ではそれはそれはひどい奴隷扱いをされるそうですよ。ガリレオさんのような美しいお嬢さんがされる奴隷扱いと言ったらそれはもう……はたして耐えられますかねえ」
俺の言葉を聞いてガリレオは肩を震わせている。自分が思想強制場でどんな仕打ちを受けるのか想像しているのかもしれない。
「ところで、ガリレオさん。聞くところによると、なにやら丸や数字を書きなぐっているそうですね。そんなことをしても、太陽が姿を隠す時刻は予測できないと思いますけれどね」
「はいはい、そうですね、弁護士センセイ。太陽が姿を隠すなんておとぎ話ですもんね。頭のいい人間がいかにもいいそうなお言葉ですね。そんなおえらい先生は、わたしのような迷信にかぶれた非科学的人間の言うことなんて放って置いてください」
「落ち着いてください、ガリレオさん。別に太陽が姿を隠すことがおとぎ話だなんて言ってませんよ。ガリレオさんのやっている方法では予測できないと言っているんです」
その言葉にガリレオは反応した。どうやら俺の話を聞く気になったらしい。
「どういうことよ、弁護士センセイ」
「とりあえず、ガリレオさんが書いていたと言う丸や数字を見せてくれませんかねえ」
「まあ、いいでしょう。はい、どうぞ」
ガリレオが牢屋の格子ごしに自分の計算式を俺に見せた。
「へえ、いままで太陽が姿を隠した日付と時刻ですか。よく調べましたねえ、ガリレオさん」
「それはもう。おばあさまや、そのまたおばあさま、さらにそのおばあさまがその日その時刻に太陽が姿を隠したとおっしゃってたんですよ。わたしはそれをおばあさまから聞いただけです」
「ガリレオさんの家には先祖代々この日のこの時刻に太陽が姿を隠したということが伝わってたわけですね」
太陽が姿を隠すと言っただけで牢屋に入れられるこの世界の現状では、そんなものが代々伝わっていると言うだけで思想強制場で送りになってしまう。もう昔の記録は思想強制場送りを恐れた人々によって、なにもかも燃やされてしまったと思っていたが、こうして残っていたとは。
「そうよ。そして、その日付と時刻をもとに地球が太陽の周りを回る公転軌道を計算して、次に太陽が姿を隠すタイミングを割り出したの」
「それが結果大外れで、ガリレオさんはこうして牢屋に入れられたと」
「はいそうです、弁護士センセイ。みんなあたしをバカにしたわ。『月が太陽を隠すなんてあるはずないだろう。そりゃあ、太陽と地球と月が一直線に並ぶことがあるだろうが……太陽がなんで光っているか知っているか? 核融合だぞ。人類がいまだ実現させられていないメカニズムで光ってるんだぞ。そんなありがたい光が月なんかで隠れるわけないだろう』なんて言ったんだから」
『太陽が姿を隠すなんてのは宗教なんてものにかぶれた、発展途上の蛮族の言い伝えだよ』なんてことは、この時代の科学万能主義を信じきっている自称知識人にありそうなことだ。そんな連中に限って、核融合なんていう理論上は起こるとわかっているのに人類には制御できないものをありがたがっているんだから始末が悪い。
「ところで、地球が太陽を中心とした円運動をしているっていうのは、太陽と地球が離れていても同じ力で引き合っているという仮定に基づいているんだよね、ガリレオさん」
「そうよ。『離れた物質が力をおよぼしあうわけないだろ。だったら手を触れずに俺を吹っ飛ばしてみろよ』とでもいう気?」
「いや、その引き合う力が、地球と太陽の距離の二乗に反比例すると仮定したらどうかなと思ってさ」
「???」
ガリレオが戸惑っている。離れた物質が力をおよぼしあうというだけでもこの時代では飛躍した発想なのに、その力が距離の二乗に反比例するという発想は突飛すぎるのだろう。
「ガリレオさんと俺が二倍遠ざかると、ガリレオさんから見て俺の表面積は二の二乗の四分の一になるよね。で、ガリレオさんから全方位に引き合う力が発生するとしたら、その力は俺の表面に対して作用するはずだから……」
「!!!」
万有引力が距離の二乗に反比例することに納得したみたいだ。ガリレオはものすごい勢いで計算をし始めた。このぶんだと、地球は太陽を中心とした円運動をしているのではなく、太陽を一つの焦点とした楕円運動をしていることにすぐ気付くだろう。そうすれば、誤差の修正もすぐのはずだ。
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