第226話 そして再び……

 ひび割れた水槽が破裂すると同時に、結衣とガーネットは現実世界に戻ってきた。

 ガーネットは本の姿から、徐々に人の形を取り戻していく。

 そして、ルリの檻を破壊する。


「……そ、そんな……っ!」


 ルリは破壊された檻の残骸を目で捉え、疑問に喘いだ。

 何が起こっているのかわからない。

 ガーネットの力は封じたはずなのに、なぜこんなことに――!


「おかえり、ガーネット」

「……ただいまです、結衣様」


 だが、そんなルリの内心をよそに、二人は二人だけの世界をつくる。

 お互いしか見えていないみたいに、その表情はとても柔らかい。

 そして、お互い腕をのばして抱きつく。


「ありがとうございます……結衣様!」

「こちらこそありがとね……ガーネット!」


 ぎゅっと、お互いの身体を強く抱きしめる。

 そしてまた、ガーネットの姿が徐々に変わってゆく。

 今度は、結衣の魔法のステッキとして。


 魔法のステッキとなった今のガーネットは無敵だ。これこそが、自分の望んだ――願った姿だから。

 万能感に包まれ、なんでも出来る気がする。

 そんな姿になったからか、ガーネットのテンションは上がる一方だ。


「さぁ! 行きますよ、結衣様! 狙うは全国ですぅ!」

「どこを狙ってるの!? たしかに間違ってはいないと思うけどさ!」


 結衣とガーネットのやり取りは、どこか微笑ましい。

 最初の頃のような、賑やかなやり取り。

 それが、みんなの心を暖かくさせた。


 ――が。

 突如地鳴りがし、空間が激しく揺れた。

 空は終わりを体現するように赤く染まり、建物は揺れる地面に耐えきれず崩れ落ちる。

 まさに、終焉の時である。


「ふざけてる場合じゃないね。やろう、ガーネット!」

「はいはーい! まっかせてくださぁい!」


 結衣はルリに向き直り、空に浮かんだまま叫ぶ。


「ルリさん! あなたはこれをずっと見てきたんですよね!」


 結衣の言葉に、ルリは目を見開く。

 図星のようだった。

 確信を得られた結衣は、なおも続ける。


「世界の終わりを防ぐ方法がわからず、世界を巻き戻すことでその方法を探そうとしていた。そうですよね?」


 今の結衣には、それがわかる。

 今ではない、何百回も繰り返した時の記憶が、全て戻ってきたから。

 みんなにも、戻ってきているはずだ。

 決していい記憶とは呼べないものの、今となっては愛おしい記憶が。


「だから、私が――私たちが、全てを救います!」

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