第225話 今度は結衣の番

 結衣がガーネットの内部に入ると、ガーネットの記憶が流れ込んできた。

 どれだけ辛かったか、怖かったか……それがすごく伝わってくる。


「うっ……うっ……」

『結衣……泣いてる場合じゃねぇぞ。はやくガーネットを助けねぇと』

「そんなことわかってるよ! わかってるけど……」


 結衣が堪えきれずに嗚咽を吐き出すと、魔央は冷たそうにそう言う。

 否、冷たそうに聞こえるだけで、魔央もガーネットの記憶に何も感じなかったわけではない。

 ただ、ガーネットの記憶に涙するより、ガーネットを助け出すことの方が大事だ。


『これじゃあ、なんのためにここに来たのか分からねぇじゃねぇか……』


 結衣がガーネットの記憶に感化されたのか、崩れ落ちて泣いている。

 魔央はそんな結衣の様子にイライラしていた。

 だが、結衣は突然思いもよらないことを口にした。


「私を選んでくれて……見つけてくれて、ありがとう」


 その言葉は、ガーネットに贈られるもの。

 ガーネットが自分を選んでくれた。

 ガーネットは、結衣ならきっといいパートナーになってくれると……信じてくれていたのだ。

 結衣がガーネットを見つける前に。


「ごめんね、魔央。進もう」


 そう言って、結衣は歩き出した。


 しばらく進んだ先に、でかでかとした扉が待ち構えていた。

 いかにもその先に何かがありそうな、大きな扉。

 結衣は丁寧に三回ノックをし、その先にいるであろうガーネットに声をかける。


「ガーネット、迎えに来たよ」


 優しく朗らかに言うと、その扉は容易く開く。

 そして、その先には――円柱状の水槽のような中に、ガーネットは目を閉じて入っていた。

 SFなどで、実験台として呼ばれた人が入れられているようなもの。

 だが、結衣はそれに億さず、堂々と笑顔で呼びかける。


「……ガーネット」

「……結衣、様……?」


 その暖かい声に、ガーネットは目を覚ます。

 ガーネットの表情は、ルリの実験台になった時の表情だった。

 とても暗く、見ている方が悲しくなるような……そんな表情。


「私を魔法少女にしてくれてありがとう。おかげで私……大切な人たちに出会えた。毎日がとても楽しかった」


 それは、ずっとガーネットに伝えようと思っていた言葉。

 ガーネットに出会えたからこそ、他の魔法少女たちと出会えた。

 ガーネットに出会えたからこそ、毎日が楽しくて充実していた。


 だから今度は、結衣がガーネットを助ける番。

 ガーネットがしてくれたように、そのままの台詞で、結衣は笑う。


「――魔法少女になってくださぁい!」


 その瞬間、ガーネットの水槽にヒビが入った。

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