第166話 見慣れた光景

 なんでこんなことになったのか。

 少女は何もわからない。自分の行動も、何を思っていたのかも。


 少女は泣きそうになりながら、起きたての日が照らす空を駆け抜ける。

 蝙蝠の翼のようなマントを翻し、逃げるようにどこまでも飛んでいく。


「……はぁ……はぁ……っ」


 勢いよく飛びすぎたせいか、息があがっている。

 どこか近くで休めるところがかいかと探し、目の前にあった山のてっぺんを目指す。


「まあ、この辺でいいか」


 そう呟いて休もうとすると――


「お〜、ここからの眺めは最高ですねぇ」

「うおあっ!?」


 突如背後からかけられた声に、驚いて腰を抜かす。

 その軽快で、どこか信用できないその声は。


「“ガーネット”……なんでついてきた……?」

「ん〜、そうですねぇ……あの時話したよしみで少し心配してるだけですよぉ」


 ヘラヘラと、いまいち掴みどころのない笑みを浮かべてそうな声でそう言うガーネット。


 そのガーネットの真意を探るように見つめるも、ガーネットの真意はわからない。

 それとも、本当に心配しているだけなのか。


 普段一緒にいる結衣でさえ、ガーネットの全てを把握しきれていないのに、少女にわかるはずもなかった。


「ふーん……けど、それだけじゃないだろ?」

「……あはっ☆ バレちゃってました?」

「そりゃバレるだろ。善意100パーで行動するやつなんて見たことねーし」

「あははぁ……まあ、そうですねぇ〜……」


 少女はなぜかあったベンチに腰掛けながら。

 ガーネットは少女の前を漂いながら話す。

 何気ない会話のように見えるも、その実、無数の思惑が交錯している。

 ――が、表面上は普通に。


「――で、何の用だ?」

「あっははぁ。実はですね――」


 そう。

 殺伐な雰囲気とか関係……ない……と、思いたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る