第164話 お母さんが人殺し!?

「はぁ……はぁ……なんでこんなに合わないの!?」

「はぁ……はぁ……知らねぇよそんなこと……」


 喋り倒しすぎて、二人は肩で息をしている。

 相当疲れたのか、机に顎を乗せてだらけている。


「『おばけレストラン』も結局観れなかったし……嫌な朝だなぁ……」

「そりゃこっちのセリフだ……朝ぐらいは穏やかに過ごしてぇよ……」

「おやぁ? お二人ともどうしたんです?」


 満身創痍な二人を眺め、ガーネットは心配そうに話しかけた。

 だが、ガーネットに取り合う気力もないのか、二人は力なくうなだれている。


 これは相当精神的にやられてるな――と、ガーネットは察した。

 どんよりとした重い空気が流れ、その場を吹き抜けることなく漂っている。


「ふむぅ……どーしたもんですかねぇ〜……」


 ガーネットが悩んでいると、ふとパンの香りがした。

 まだ食べ途中のようだ。

 どうにか二人の元気を取り戻そうと、ガーネットは二人の意識を逸らすことにした。


「まだ朝ごはん食べかけじゃないですかぁ〜。ちゃんと食べないと栄養摂れませんよぉ?」


 窘めるように、それでいて比較的優しげな口調で言う。

 だが、結衣たちは見向きもせず。


「もう食欲ないよ……」

「ガーネット……だっけ? お前が食っていいぞ」

「私は食事できませんけど!?」


 気だるげに言い放った言葉は、ガーネットをツッコませるに足りるものだった。

(相当やばいですねぇ……)

 なぜ互いの好みが会わないだけで、こんなにも消耗するのかはわからないが。


「おはよ〜。相変わらず起きるの早いのね」

「……お、お母さん……!」


 寝間着姿のまま、唐突に現れた結衣のお母さん。

 いつもなら、結衣は普通に「おはよ〜!」と挨拶を返すのだが……


「――あら? どちら様?」


 そう問う視線の先には、当然赤毛の少女の姿がある。

 当の赤毛の少女はと言うと、目を見開いてお母さんを凝視している。

 そして、ふるふると首を振って我に返ると。


「……はじめまして。――

「……へ?」


 殺意を滲ませた声と、鋭く突き刺すような視線で応じた。


 一瞬の間に何が起こったのか。

 なぜお母さんが人殺しと呼ばれたのか。


 何もかもわからない結衣は、小さく疑問の声を軽く出すしかできなかった。

 お母さんは、先程の赤毛の少女と同じように、目を見開いて固まっていた。

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