第162話 双子のような

 なかなか濃厚な野外学習を終えた結衣。

 ぐっすりと寝ていて、なかなか起きる気配がない。


「むにゃむにゃ……」


 と、意味のわからない言葉を発しながら寝返りをうつ。

 結衣が寝返りをうった先からも、何やら寝息が聞こえる。

 それを感じた結衣は、ふと目を覚ます。


「んん? ――って、えええ!?」


 寝起きにも関わらず、すごい声が出た。

 勢いで飛び起きた結衣の隣には、あの赤毛の少女が横たわっている。

 そんな赤毛の少女が、結衣の叫び声で目を覚ます。


「……んあ? なんでお前がここにいるんだ?」


 寝起きのせいか、いつもより不機嫌そうに零す少女。

 そんな少女に、結衣はどう言っていいのかわからず、口をパクパクさせる。


 結衣の様子に何か思うところがあったのか。

 少女が周りを見回すと、全てを察した。


「……あー、俺帰るところ間違えたってことか……」


 軽い失敗を悔やむように苦笑いして、少女は呟いた。

 そして、唐突に魔王姿に変身すると、窓を開けて出ていこうとする。


「いやいや、待ってよ!」

「……あ? なんだよ」


 だが、結衣は少女のマントを掴み、引き止める。

 それを嫌そうに睨む少女。

 自分が嫌われているとわかってなお、なぜ結衣は。


「い、色々言いたいことはあるけどっ! まずは――なんで私のベッドに忍び込んでたの!?」


 自分のことを必死に引き止めようとするのだろう。

 そう思おうとしていた少女は、結衣の言葉に思考が止まる。


「……は?」

「だ、だってそうでしょ? 私の貞操を狙ってたとしか思えないし、純潔も奪われて――……ない、よね……? 大丈夫だよね??」

「お、おい……俺を置いて一人で先に進まないでくれ……どうツッコんでいいかわからん」


 怒涛の勢いでまくし立てる結衣だったが。

 自分で言って不安になってきたのか、しきりに自分の身体を見回す。


 結衣に置いていかれた少女は、自分がここから去ろうとしていたことを忘れ、どこからツッコむべきか悩んでいる。


「絶対何もしてないよね!?」

「するわけねーだろ! お前なんかに興味ねーし!」

「し、してる人はみんなそう言うんだもん……やっぱりなんかしたでしょ……!」

「だからしてないって言ってんだろうが!」


 ギャーギャーと。

 窓の外まで響き渡るほどの音量で喧嘩する二人。

 どこか姉妹のようなやり取りにも見える光景に。


「……私は参加しない方がいいですかねぇ……」


 ガーネットは珍しく空気を読んでいた。

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