第161話 なにか忘れている?

「――で、あなたは誰なの?」

「……え」


 グループの一人が、遠くにいる赤毛の少女に駆け寄って言う。

 赤毛の少女は、しきりに目を泳がせていて、答えをどこからか探しているように見えた。


「えーっと……結衣あいつの親戚だよ」

「ふーん? どういう感じの親戚? いとこ?」

「……まあ、そんな感じ……」


 赤毛の少女の言葉には、いまいち信憑性がない。

 ズバッと言い切るのではなく、しどろもどろに言っているせいもあるだろう。


 だからグループの子は、赤毛の少女に対して不信感を募らせる。

 赤毛の少女はそういう雰囲気を感じ、自分が追い詰められていることを感じた。


「あ、あの――」

「あー!! 明葉ちゃんは!?」


 なんとかその不信感を拭いさってもらいたく、口を開いたが。

 周囲の全てを震わせるほどの大音量で叫んだ結衣によって、赤毛の少女の声はかき消されてしまった。


 そして、一拍おいて沈黙が流れ――


「あああ!! そうじゃん!?」

「え、ど、どうしよう! 明葉ちゃんがいないの忘れてた!」


 結衣と同じような大音量の叫び声が響く。

 この場にいなくてはならない者の姿がないのだ。

 それも当然だろう。当然、だと思うのだが……


「う、うるせぇ……」


 結衣の叫び声のせいで耳鳴りを発症した少女が、キレ気味に呟いた。

 耳を塞いでいる少女のことは誰にも見えていないようで、必死に明葉を探している。


「明葉ちゃーん! どこー?」


 結衣が大きな声で明葉を探し始めると。

 少女を問い詰めていたグループの一人も、一緒に明葉を探し始める。

 やっと解放された少女は、ほっと安堵のため息をつく。


「はぁ……もう帰るか――ん?」

「ガクブルガクブル」


 踵を返してこの場を去ろうとしていた少女の足元に。

 ガタガタと、生まれたての子鹿以上に震えてうずくまっている――明葉の姿が。


「な、なぁ……ここに明葉いるぞ?」


 その少女の言葉に。

 結衣たちは一斉に少女の方へ目を向けた。


「よかったぁ……!」

「も〜、心配させないでよ〜」

「……へぁ? あ、皆さん……?」


 グループの子たちは、明葉の方に向かって駆け出す。

 すると、明葉は憑き物が取れたように我に返る。

 そしてみんなが仲良く笑い合っている様子を見ながら、


「……うん、もう帰るか……」


 付き合いきれなくなった少女が、遠いどこかを見つめるような瞳をしながら去っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る