第148話 美味しい食事と謎の少女

「はぁ……あの人ほんとになんだったの……?」

「うーん、うちにもさっぱりやわ……」


 謎の少女が消え去り、結衣たちは自分たちで作ったカレーを食べている。

 カレーというものはレトルトでも充分美味しいが、自分で作って友だちと食べるのは格別だ。


「まあ、カレーが美味しいからどうでもいいけど」

「結衣さん……」


 結衣が幸せそうに微笑むと、明葉もつられて笑顔になる。

 美味しい食事の前では、些細なことなどどうでも良くなるなるのだ。

 少し不格好なじゃがいもを口に入れ、結衣は目を細める。


「ん〜! 美味しい〜!!」

「うん、ほんとに旨いなこれ。控えめに言って最高」

「☆△○♡□▽☆○!?」


 一番縁に座っていたはずの結衣の隣から、歓喜の声が上がった。

 その声に驚き、結衣は声にならない声を発する。

 そして、驚いた拍子に、椅子から転げ落ちてしまった。


「な、ななな!?」

「あはは。ざまぁねぇな」


 “な”しか発することが出来ない結衣に対して。

 赤毛の少女は、口を開けて豪快に笑う。

 よほど結衣の様子が面白かったのか、琥珀色の瞳からは涙が出ている。


「あっはっはっ! あー、腹痛てぇ」


 お腹を抱えて笑う様子は、殺意を渦巻かせていた時とは別人のようだ。

 謎の少女が爆笑している間に、ある程度状況が飲み込めた結衣は、姿勢を正して言う。


「……もしかして、カレー食べに来たとか?」

「そうだが、何か問題あるか?」


 少女があれほどカレーの食材に夢中だったから。

 カレーが大好物だというのは、誰の目にも明らかだ。


「……分かったよ。でもあなたが何者なのか――後で話してもらうからね」


 結衣は、少女と一緒にカレーを食べることを渋々了承した。


「んー、そうだなぁ……お前が思い出したら話してやるよ」

「……ど、どういう……? 私とあなたは初対面でしょ?」


 先程まで明るく笑っていたとは思えないほど、少女は冷めた眼をする。

 それに面食らった結衣は、おどおどしながら言葉を返す。

 そんな結衣の言葉に、少女は明らかに機嫌が悪くなった。


「そういうところが嫌いなんだよな。まあ、今は殺さないでいてやるよ」


 “殺す”という単語が出てきて、結衣は目を見開く。

 やはりこの少女が、新たな敵なのだと理解したからだ。

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