第139話 野外学習の準備

 ガーネットの意外な一面を見た翌日。

 野外学習に向かうため、しおりを見ながらいるものを用意している。


「ん? え、これあったかな……お母さーん」


 ギリギリまで準備を怠っていたせいで慌ただしく、忙しなく動き回っている。

 なんでギリギリまで放っておいたのだろう、と。

 結衣は己の怠惰を恨んだ。


「ううう……終わらないよぉ〜……」

「自業自得ですよぉ? ちゃんとやっておかないとぉ」

「うう……ガーネットに説教されてる……なんか屈辱……」

「酷すぎませんか!?」


 なんだか久しぶりに自分たちらしいやり取りができて、結衣は薄く笑う。

 こんな何気ない会話を嬉しく思う日が来るなんて、結衣は想像もしなかった。


 なぜか元気をもらった結衣は、気合を入れてもうひと頑張りしようと踏ん張る。


「よーし、明日までに終わらせるぞー!」

「おー! その意気ですよ、結衣様!」


 そんなふうに二人で盛り上がっていると、ノックの音が聞こえてきた。

 そして、ガーネットは慌ててその音から逃げるようにして隠れる。


「結衣ー? 入るわよ?」

「あ、うん……! いいよ!」


 ガーネットが隠れられたことを確認し、結衣はドアを開ける。

 その開けたドアの先には、大荷物を抱えたお母さんがいた。

 結衣は戸惑い、目を点にする。


「……え? この大荷物……何??」

「え? 何って――野外学習に必要なものを持ってきたのよ」

「――え?」


 この大荷物が、全部野外学習に必要なものなのだろうか。

 結衣がたじろいでいると、お母さんが結衣の部屋の中へ入ってくる。


 そして、ゆっくりと抱えていた大荷物をおろす。

 妙に大きなバッグのチャックを開けると――


「わぁ……」


 結衣は思わず感嘆の声を零した。

 バッグの中には――寝巻きパジャマや着替え、歯ブラシやお菓子やアナログゲーム(トランプ)など。

 野外学習に必要なものがたくさん入っている。


「お母さん……ありがとう……」


 結衣は、嬉しすぎて泣きそうになった。

 ここまでしてくれる人は、そういない。

 感謝を伝えるだけでは到底足りない。


「いいのよ。野外学習、楽しんできてね」

「……うんっ!」


 お母さんの優しい声に、結衣は笑顔でこたえた。

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