第135話 大量殺人鬼

 そこは、本当に素晴らしかった。

 明るく笑う人々、活気溢れる街、澄み渡る青い空。

 どこを見ても、素晴らしいとしか言い様がない。


「すごーい!」


 当時の――小学三年生のカスミは、“すごい”としか言えなかった。

 だが、誰が見てもその言葉が出てくるだろう。

 それほどまで、この地は人を惹き付ける。


「ほら、はぐれるといけないからあまりはしゃがないの」

「はーい!」


 カスミの母親が、宥めるように笑う。

 カスミは母親の手を取り、満面の笑みを浮かべる。

 そして、軽い足取りでその地を踏みしめた。


 ☆ ☆ ☆


 アメリカに来てから一年ほど経ったある日。

 それまで平穏に暮らしてきた紺條家に、事件が起きる。


「大量殺人鬼?」

「そうなのよ。物騒よね〜……」

「うちの近くにいるんだもんな。しかもまだそいつ捕まってないらしいしな……」


 夕食をお腹いっぱい食べ終え、家族で団らんしていた時だった。


 ニュースを見て、大量殺人鬼が現れたということを知った。

 もうすでに十人くらいは殺していて、その犯人はまだ捕まっていないらしい。


 だけどカスミは、うちは大丈夫だろうと高を括っていた。

 日本で暮らしていた時も、似たようなニュースがたくさんやっていた。

 だが、うちにそれが降り掛かってきたことはないから。


「犯人……はやく捕まるとイイネ」


 カスミはそう言って、煎餅を頬張った。


 そして、その夜のこと。

 カスミが、自分の部屋で気持ちよく眠っていた時。


「な、なに!?」


 何か大きな物音がして、目が覚めた。

 下の方から聞こえてきたから、おそらく一階で何かが起こったのだろう。


「……ママ? パパ?」


 カスミは階段を降りて、廊下を歩いていた。

 明かりがまったくついていないせいか、やけに不気味に感じる。

 その時。


「アレ? 二人の部屋が開いテル……」


 両親の部屋の扉が、中途半端に開いていた。

 カスミは嫌な予感がしながらも、おそるおそる中を覗く。


 すると――


「ひっ……! ママ!? パパ!?」


 両親は、力なく床に倒れていた。

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