第134話 過去を語り出す

「はー……こういうふうに笑ったの久しぶりかもデス」


 少女の目には涙が浮かんでいる。

 笑いすぎて出てきたのか、それとも嬉し泣きなのか。

 判別は出来なかったが、結衣にはどうでもよかった。


 このまま心を開いてくれれば、戦わずに済むから。


「じゃあさ、これからはこんなふうに笑い合おうよ! ……この前のことは、チャラにしてあげるからさ」


 結衣は少し陰を含ませながらそう言った。


 夏音は無事だったし、結衣も怪我をしていない。

 できるだけ、結衣は無益な戦いは避けたいと思っている。


 それに、少女が友人になってくれれば、も――


「チョット、ついてきてほしいんデスガ……」


 少女はおもむろに立ち上がり、結衣の腕を引っ張った。


 ☆ ☆ ☆


「……えーっと……」


 少女に引っ張られ、結衣は店の外に来ていた。

 だが、少女は俯くばかりで、一言も発していない。

 結衣は沈黙に耐えられなくなり、何か言おうと試みる。


「何か話したいことでもあるの?」


 結衣はおそるおそる、静かに尋ねた。

 だが、少女は依然俯くばかり。

 結衣が打つ手をなくした、その時。


「……ホントに、チャラにしてくれるンデスカ?」


 少女は、思いもよらない言葉を放った。

 顔を上げ、不安そうに瞳を揺らす。

 そんな少女に、結衣は不安を蹴散らすように明るく笑った。


「うん、もちろん! 嘘はつかないよ!」


 結衣がそう言うと、少女は安堵の表情を浮かべる。

 そして――


「ミーの名前は、紺條こんじょうカスミ。二年間アメリカにいまシタ」


 少女は自分の過去を、語り始めた。

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