第133話 緊張の糸が解ける時

 結衣たちは店員に促された席へ座り、妙な空気を漂わせていた。

 主に小学生の女子二人が。


「……ね、ねぇ、どうしてここに来たの……?」

「それ、あの子も訊いてたわよね?」


 結衣が吸血鬼のような少女に、恐る恐る疑問をぶつける。

 すると、結衣のお母さんがもっともなツッコミを入れる。


 吸血鬼のような少女はじっとテーブルを見つめていて、何かを考え込んでいるような様子だった。

 ここではないどこかを見つめているような瞳に、結衣はそれ以上何も訊けなかった。


 そうこうしているうちに、頼んでいたものが届いたようだ。


「お待たせしました! お子様ランチお二つです!」

「わー! 美味しそう……!」


 店員が持ってきてくれたお子様ランチを見て、結衣は歓喜の声をあげる。


 プリンのような形のケチャップライスに、小さいサイズのハンバーグ、オレンジジュースや市販のぶどうゼリーなどなど。

 お子様に嬉しいラインナップになっている。

 プレートは新幹線を模していて、おまけにオモチャもついている。


 結衣は少し子どもっぽいかとも思ったが、このラインナップが好きでやめられずにいる。


「ほら、先に食べてていいのよ? 二人とも」

「え、いいの!? やったー!」

「……あ、あの……イインデスカ? ミーがここにいても……」


 結衣のお母さんが、優しく包み込むように言う。

 結衣は手をあげて喜び、少女は申し訳なさそうな様子だった。


 そんな少女のようすに何か感じるものがあったのか、結衣のお母さんは口を開こうとする。

 ――だが。


「そんなの気にしなくていいんだよ! 一人でここに来たんでしょ? ……あれ、一人でここに来たの?」

「……結衣……」


 少女を元気づけようとしていたのか。

 結衣は明るく言い放ったのだが、途中から話がズレていった。……口元に米粒をつけながら。

 結衣のお母さんはそれを見て、呆れたように零した。


 そんな二人のやりとりを、少女は目を丸めながら見ている。

 ――“ここに居てもいい”。

 婉曲にそう言われた気がして、少女は笑った。


「ふ……ふふふっ……!」


 緊張でピンと張った糸が、安心して解けていくのを感じる。

 嬉しそうに笑う少女を見て、結衣たちも楽しそうに笑った。

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