第132話 家族でファミレスへ

 そうして、何気ない日常を噛み締めていた結衣だったが。

 あの吸血鬼のような少女のことが気になって仕方がなかった。


 今までの敵とは少し違うから。


 結衣の命を狙ってガーネットを奪うのが、今までの敵に共通している所だった。

 なのに、吸血鬼のような少女はそうではなく。

 結衣が魔王姿になることこそを望んでいた。


 その少女の狙いはわからない。

 なぜそんなに、結衣の魔王姿に執着しているのか。


「――様? 結衣様?」


 ――ハッ、と。

 ガーネットの声で、結衣の意識は現実に引き戻された。


 サンサンと照りつける太陽が眩しいお昼どき。

 ファミレスでお昼ご飯を食べるべく歩いていたことを、結衣は今思い出した。


「あ……ごめん、ガーネット。どうしたの?」

「お父様とお母様はもうお店に入られましたよ? 結衣様も早く入りませんと」

「あー、そっか……! ありがとう!」


 ガーネットにお礼を言って、結衣は足早にファミレスへ駆け込んだ。

 ガーネットは今、自身に認識阻害魔法をかけているため、人前に出ても大丈夫なのだ。


「お母さん! お父さん! 遅くなってごめんなさい……!」

「あら、どうしてこんなに遅くなったの?」

「何かあったのか?」


 結衣がお店のドアを開けると、心配そうに佇む両親の姿があった。

 結衣はそんな両親に、どう言い訳しようか考えている。


 ――だが、ボンッと。

 ついぞそれっぽい言い訳が出てこなかったのか、結衣の頭は知恵熱で爆ぜた。


 そんな結衣に見かねたガーネットが、「やれやれ」とため息をつく。


「結衣様のご両親に使うのは気が引けますが……やむを得ませんね」


 と言い、結衣の両親に記憶消去の魔法をかけた。

 “結衣が遅れた”ことのみの記憶を消された結衣の両親は、何事も無かったかのように店員の呼び出しを待っている。

 結衣はそのことにホッと胸を撫で下ろし、ガーネットに視線でお礼を言った。


 その時、結衣の瞳にとある一人の少女の姿が写った。

 腰まで伸びた長い髪白銀の髪に、深紅の瞳を持っている少女。

 その、吸血鬼のような少女は――


「……ん? …………なんで、アナタがココに……?」


 あの時。遊園地でみんなと遊んでいた時。夏音を攫っていった、少女だった。

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