第125話 これは、なんだ……?

「はぁ……やっと追いついた……」

「あ、あの……安心しているところ悪いのですが……なんだか嫌な予感がします」

「え? なんで??」


 やっと夏音に追いついたばかりだというのに、ガーネットは何を言い出すのだろうか。

 結衣は、また夏音が逃げ出さないように、夏音を注視しながらガーネットの話を聞く。


「……腑に落ちないことがあるんですよ。なぜ夏音様は結衣様を見て逃げたのでしょう?」

「え? ……あ、確かに……」


 確かにそうだ。

 なぜ結衣を見て逃げたのだろう。

 普通なら、夏音の方から結衣に駆け寄るはずなのに。


「でも……何かわけが――って、夏音ちゃん!?」


 ガーネットの話を聞いている間に、夏音はつらそうにうずくまっていた。

 結衣はガーネットの話をすっかり忘れ、夏音に駆け寄った。


「夏音ちゃん! 大丈夫!?」


 夏音の身体を揺さぶって、声をかける。


 と、その時。

 夏音の身体から黒いモヤみたいなものが出ていることが分かった。

 結衣はそのモヤに、既視感を覚えた。


 そう。このモヤは、以前公園で美波と戦った時、が発していたもの。

 だとしたら、は――……


「本物の夏音ちゃんじゃない――!?」

「んー、ボロが出るの早すぎマセンカー? とてもバッドなキブンデスヨ」


 いつからそこにいたのか。

 元からそこにいたように、ごく自然に立っている。

 少しばかりカタコトな日本語を発する少女。


 その少女の姿は、一言で言うと――吸血鬼だ。

 白銀に輝く長い髪に、血のような紅い瞳。

 頭からは小さい角、背中からは蝙蝠のような翼、腰からは悪魔のような尻尾をそれぞれ生やしている。


 もう、嫌でもわかる。

 ただのコスプレ少女などではない。

 目の前にいるのは、れっきとした“敵”だ。


 多分夏音は、この人が連れ去ったのだろう。

 この人は、今までの比じゃないぐらいの殺意を放っている。


「あー、そうそう。夏音サンはミーが預かってマスカラー。――本気で攻撃してきてくれてイインデスヨー?」


 ニヤリと、薄気味悪い笑みを浮かべながらそう言う少女。

 その言葉を受けて、結衣は平常心を保てなくなった。

 結衣の目は、殺意に燃えている。

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