第124話 魔法を駆使してまで

「……しっかし、見つからないね……」

「人が多くて土地も広いですからねぇ〜……見つけるのは至難の業かと」


 結衣は既に変身し、探索魔法をかけている。

 だが、夏音を見つけることは出来ていない。

 魔法も万能ではないということだ。


「はぁ……はぁ……」

「大丈夫ですか、結衣様? 少し休まれた方が……」


 そう。結衣は夏音を探すため、魔力を使いすぎたのだ。

 飛行魔法、認識阻害魔法、探索魔法を同時に使えばそうなるだろう。


 結衣の身体は疲弊し切っていて、顔色が悪い。

 足元もおぼつかなくて、フラフラしている。


「でも……っ、こうしているうちにも夏音ちゃんが危険な目に遭ってたら……っ!」


 結衣はあらゆる可能性を危惧する。

 誘拐された可能性。

 あるいは、ただの迷子である可能性。


 ……あるいは。

 新たな敵に捕らわれている可能性。


「夏音ちゃん……!」


 結衣はいてもたってもいられなくなって、叫び出す。

 だが、その叫びに応えるものはいない。

 結衣は泣きそうになるが、必死に堪える。

 泣いても、事態が好転することはないと分かっているからだ。


 結衣は再び、探索魔法をかける。

 無理をしてでも、絶対に夏音を見つけなくてはならない。

 そう、美波と約束したから。


「……あれ? あ! 見てください、結衣様!」

「え? ……あ! 夏音ちゃん!?」


 結衣は今、園の入口付近を飛んでいる。

 その真下辺りに、夏音らしき人物がいるのが見えた。


 結衣は夏音を見つけた高揚感で満ち溢れている。

 地面に降り立ち、認識阻害魔法と変身を解く。

 そして、結衣は夏音の方に駆け寄る。

 だが――……


「えっ!? ちょっ……! どこ行くの!?」


 夏音が結衣に気づいた途端、走って逃げてしまったのだ。

 結衣は困惑しながらも、必死で夏音を追いかける。

 だが、人混みに飲み込まれ、夏音の姿を見失いそうになる。


「結衣様! 空に!」

「……わかった!」


 人気のない所に隠れ、結衣はまたもや変身する。

 そして、空を飛び、再び夏音を追う。


 落ち着いた色ながら、自らを主張するように輝く夏音の髪は、とても見つけやすい。


「夏音ちゃん!」


 夏音に追いつこうとすることに必死で、結衣は違和感に気づくことができなかった。

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