第101話 こわい本の魅力

「おー! 中もすごい……っていうか、中の方がすごい!」

「新しく……できた……のって、なんか……いい、よね……!」


 内装はすごく綺麗で、新しくできただけはある。

 品揃えも良すぎて、逆に不気味なぐらいだ。


 参考書、雑誌、漫画、小説、自己啓発本、児童書……

 そして、駄菓子や筆記用具なども売っている。


「なんだかわくわくするね! 宝探ししてるみたい!」

「うん……! 私も……すごく……たの、しい……!」


 結衣たちはもちろん、児童書のコーナーにいた。


 だが、小学校の高学年になったので、そろそろ児童書のコーナーから卒業したい。

 結衣はそう思っているのだが。


「ねぇ……これ、見て……!」


 そう、これだ。

 こういう本が、結衣たちをここから抜け出せなくさせているのだ!


 その、正体は――


「こわい……本、あった……よ……!」


 子供向けの、比較的ゆるい感じのホラー本だ。

 漫画もついていて、子供にとってはすごく読みやすいようになっている。


「あ、これ最近出たばっかのやつだ。見たことない……」

「え? 結衣……これの、シリーズ……持ってる、の……?」


 結衣が真菜の指さした本を手に持って、呟いた。

 結衣が手にしている本は、『UMAって本当にいるの?』というタイトルがついている。


 このシリーズは、他にも『妖怪って本当にいるの?』や、『ポルターガイストって本当にあるの?』などがある。


「あー……まあ、一応オカルト好きだしね……」

「……すご……っ! いい、なぁ……!」

「えへへ……」


 そんなような会話を交わし、一通り本屋を堪能し終えた。

 買うものを決め、レジに並んでいる。


 すると、結衣はどこかで見た事のあるような後ろ姿を捉える。


「……え? も、もしかして……明葉ちゃん?」

「へ? あ、結衣さん!」


 なんと、明葉は結衣たちのすぐ前に並んでいるのだ。

 すごい偶然……と結衣は喜ぶ。

 だが、真菜はキョトンとしている。


「……だ、れ……?」

「あー、そっか。真菜ちゃんは……ん? あれ? 他のクラスに知れ渡ってないの?」

「……? なに、が……?」


 いまいち話が噛み合わない。

 結衣はどうしたものかと悩むも、なかなか解決策が見つからない。


 結衣がこわい顔をして、考える人のポーズを真剣にやっていると。

 明葉が、何かひらめいたような顔をした。


「そうや! うちの顔は見てへんのやろ。そういうことやない?」

「……? ……! あー、そういうことね……」


 明葉の言葉により、謎が解けた。

 つまりはこういうことだ。


 結衣は、隣にいる真菜に向き直る。


「この子は高柳明葉ちゃん。最近こっちに来たばかりの転校生だよ」

「あ……転校、生……なんだ……! 転校、生……が、来てた……ことは、知ってた、けど……」


 そう、そういうことなのだ。


 転校生が来ているという話は広まっていても、その転校生がどういう人なのかまではわからない。ということである。


「ふー……明葉ちゃん、ありがとう……」

「いんや、うちはなんもしてへんよ? せやから大丈夫よ」


 明葉は天使なのかもしれない。

 結衣を助けたのに、それを自慢げにふんぞり返ることもなく。


 すごくいい人だなと、結衣は思う。

 まさしく天使! いや、女神!!


「お客様? どうされました?」


 どうやら、レジの順番が来ていたようだ。

 結衣は顔を真っ赤にしながら、そそくさとレジへ走った。


 ☆ ☆ ☆


 欲しかった本を買えて、結衣は満足している。


 新しい本屋ができたことを教えてくれた友人にも。

 結衣と真菜の噛み合わない話を救ってくれた友人にも。

 結衣は感謝している。


 だからだろうか。

 結衣は静かすぎるガーネットのことに、ついぞ気付くことはなかった。

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