第43話 大好きなシチュー
「あら、おかえりなさい。結衣」
「ただいまー! お友達も連れてきたよー!」
結衣たちが家に着くと、結衣のお母さんが出迎えてくれた。
「あ、えとっ……白石緋依……です……」
「こんにちは……こんばんはかしら? 初めまして、結衣の母です」
お互い簡単な自己紹介が終わったところで、家の中に入る。
「ねー、お母さん! お腹空いた~」
「はいはい。今作るわね」
ガーネットは結衣のお母さん対策に認識阻害魔法を掛けながら、そこら辺を飛び回っている。
緋依は一応促された席に座ってはいるものの、落ち着きなく、そわそわしている。
「あっ、緋依ちゃん。嫌いなものとかない?」
「へっ……? あ、い、いえ……! 大丈夫です!」
「そう? なら良かった」
結衣のお母さんはキッチンで色々な野菜を出しながら「どれがいいかな……」と悩んでいる。
その様子を横目に、結衣は緋依に声をかける。
「うちのお母さんが作る料理ね、とっても美味しいんだよ〜!」
キラキラと目を輝かせて言った。
だけど緋依はずっと下を向いたまま、何かを考え込んでいる様子だ。
「ひ、緋依さ――」
結衣がそう口にしかけた時、ガーネットが緋依を目掛けて突撃してくるのが見えた。
「えっ? ちょっ……!」
「――いたぁ!?」
「えっ? どうしたの??」
騒ぎを聞き、お母さんが目を見開いてこちらを見る。
だが、ガーネットの事を――お母さんだからと言って話すわけにはいかない。
「あっ……えっとね、テーブルの脚に指ぶつけたみたいで……」
あわあわと、結衣は身振り手振りをしながら怪しげに説明する。
だが、それで納得したのか、はたまた忙しかったのかはよく分からないが、「そうなのね」と言ってまた料理を再開した。
結衣はホッと胸を撫で下ろし、眼前の少女を改めて見る。
「え、えっと……大丈夫……?」
「うわぁぁ……後頭部直撃したぁ……」
「ふっふふん。どうだぁ! やってやりましたよぉ〜」
結衣は心配し、どうにかしようと試みているが、どうにも出来ずにあたふたしている。
だが、ようやくどうすべきかが見えてきた結衣は。
物理的にも上から目線で笑っているクソステッキを捕え、ぎゅーっと絞るように握りしめた。
「ぎゃー! 結衣様痛いですぅ!」とか聞こえたような気がするが、結衣は空耳だと納得して逆方向にもぎゅっと雑巾を絞るように握る。
それを、ギョッとして結衣たちを凝視している緋依の視線に、結衣は気付き――
「な、なに? どうかした……?」
「え? あ、いや……いつもそんな感じなんですか……?」
緋依は恐る恐る結衣たちに指をさすと、そう訊いた。
結衣はキョトンと首を傾げて、
「うん、そうだよ?」
とキッパリ言った。
ガーネットも、「いつもこんな扱いですよぉ……やれやれ」と零す。
そんな結衣たちを見て、唖然としている緋依だったが――
「ご飯出来たわよ〜」
結衣のお母さんの声で、我に返った。
「わーい! あっ、私の好きなクリームシチューだ……!」
「うふふ。緋依ちゃんのお口にも合うといいのだけれど……」
結衣の歓声に嬉しそうに微笑んだ結衣のお母さんは、緋依さんの方にシチューを持って行きながら訊く。
「あっ……た、多分……大丈夫です……!」
熱々のシチューを物珍しそうに観察している緋依の姿を見て、結衣は思わず笑ってしまった。
「ねぇ、緋依さん」
結衣はそう声を掛け、
「一緒に食べよう?」
と笑顔で訊く。
すると、緋依は目を丸くした後、少し微笑んで。
「……うん!」
――そう言って、一緒にシチューを頬張った。
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