第42話 お泊まり会をしよう!

「それで天使の力が手に入った……てこと?」

「そうですね……まあ、そんな感じです」


 結衣以外の強い願いを持つものがどんなふうに力と出会ったのか――

 それを結衣は知らなかったので、結衣は謎が一つ解けた気がした。


「――ねぇ、なんか別のこと考えてません?」


 緋依が半眼で、結衣の心を見透かすように言う。


「へぁっ!? べ、べべべ別に??」

「結衣様分かりやすいですね……笑」

「なんでわざわざ『笑』って言うの!?」


 上ずって出た言葉に、ガーネットが口を挟む。

 だが、意外にも緋依がガーネットを制してくれた。


「あー、はいはい。話が脱線したので戻しましょう」


 その言葉に、結衣もガーネットも大人しくなる。

 そして、ガーネットが「さっきの話を聞いて思ったんですけど」と口にする。


「顔についてたと言ってた傷――誰につけられたんですかぁ?」


 結衣はハッと目を見開く。確かにおかしい。

 今の話の中で、“暴力”は出てこなかった。


 ――しばらく沈黙が続く。


 結衣はそれを責めるでも、急かすでもなく、ただ続く言葉を待つ。

 覚悟が出来たのか、やがて緋依はおもむろに口を開く。


 だが、発せられた言葉は意外なものだった。


「……私が世界平和を望んだのはですね、皆が幸せになればいいと思ったから――」


 ガーネットの質問への答えをはぐらかし、別の謎を明かしてゆく。


「私が不幸だったから――皆にも、こんな思いをして欲しくなかったから……」


 そして、だんだんとその声は涙に濡れる。


「だからっ……私は“願った”のに――なんで……なんでっ!」


 天使は声を荒らげて、溜めていた感情を一気に吐き出す。

 結衣は地に伏し、嗚咽する“天使”を見下ろして言った。


「ねぇ、私の家に来ない?」


 手を伸ばして、笑ってそう告げた。

 辺りはすっかり暗くなり、街灯と月だけが道を照らす中、結衣は続ける。


「私もね……ううん、真菜ちゃんもせーちゃんも――それぞれ“願い”はあるんだよ」


 結衣の言葉に顔を上げ、訝しむように睨んだ。否、結衣の後ろにある街灯が眩しかったようで、そう見えただけかもしれない。


「……知ってます。だからこそ、そんな姿をしているのでしょう?」

「あはは、そうだね……」


 そんな姿――この魔法少女衣装の事だろう。と、結衣は苦笑した。


「でも、皆が皆……その“願い”を……叶えることが出来るとは限らない」


 ――そう、目の前の少女がそうであるように。

 ――真菜のことも、せーちゃんのことも、ガーネットが了承しなければ難しかった。


 緋依は肩を落とし、「やっぱりそうだよね……」と、小声で呟いた。

 だが、結衣が続けた言葉に、緋依は目を剥く。


「でもね、でも……だからこそ楽しいんじゃないかな?」

「……」


 緋依は呆気に取られ、声を出せないでいる。

 それに構わず、結衣はなおも続ける。


「『叶わなかった! 悔しい!』――そうやって、また私に挑むのも……ありだと思うんだ」


 そして――結衣は不意に影を落とし、


「“もう諦めてしまえばいい”って……そんなのつまらないし、悲しいと思う」


 そしてまた笑顔を作り、終わらせる。


「だから何度でも、何回でも――私は相手になるよ! その方が……楽しいでしょ?」

「……そ、んな……こと……」


 緋依は言葉に詰まり、おどおどと挙動不審になりながらも、何とか言葉を紡ごうと画策しているように見えた。

 だが、答えは出なかったのか、緋依は目を伏せて顔を逸らす。


 その様子にもう我慢できなかったのか、ずっと黙って見守っていたガーネットが口を開く。


「あ〜、もう! 焦れったいですねぇ! 本当は『救ってくれてありがとう』とか思ってるくせにぃ!」


 ぷんすか、とわざわざ言って締め括った。

 そんなガーネットを見て結衣は、やっぱりガーネットと出会えて良かった……と思っている。


「ね? ほら……! 一緒にお泊まり会しようよ……!」


 結衣はそう笑って、緋依の腕を――優しく引っ張った。

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