第38話 謎の声

 暗転した視界の中。

 意識が朦朧としたまま、結衣はただ声を聞く。


「結衣様! 結衣様!?」

「無駄ですよぉ。彼女の意識はもう目覚めることはないのです!」


 ガーネットは、心配するように結衣に声をかけるが。

 天使は気の抜けるような声で、ズバッと突拍子のないことを言い放つ。


 ――声は聴こえる。思考することもなんとかできる。

 しかし、身体を動かすことが出来ず、意識も保つことが難しくなってきた。

 その時――


「――力が欲しいか」


 唐突に――地獄の底から鳴り響いたのではと思わせる、野太い声が結衣に問う。


 脳内に直接語りかけてくるような……そんな声だった。

 現に、天使とガーネットは気付いていないようだから。


 結衣は唐突にかけられた声にどう反応したらいいか分からず、狼狽えた。

 しかし、そんな結衣を無視して“声”は続ける。


「お前の力、私なら存分に発揮させてやれるぞ?」


 ――心が揺れる。

 ……というかもう、結衣の心は決まっていた。


「……うん。お願い。あいつのこと――絶対に許せない!」


 怒りを滲ませて結衣が放った言葉に。

 声はニヤリと笑った気がした。


「よかろう。ならば望め。願え。強い自分を想像するがいい」


 言われて結衣はその通りにする。

 “強い自分の想像”――想像するだけで良いのかと思われそうだが。


「そう、それで良い。お前が願うだけでそれが魔力源となり、お前に力を与えてやれるのだ」


 心優しく、“声”が説明してくれる。

 だから結衣はその“声”に身を委ね、徐々に意識が覚醒していった。

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