第37話 嫌な予感は的中し……

 帰り道。

 いつもは通らない場所を通り、気分転換をしようと考えていた。


 少し遠回りにはなるが、嫌な予感が頭から離れないから。

 駅の方へ行けば人が沢山いるだろうと考え、結衣は駅に繋がる細い道を歩いている。


「あれぇ? 結衣様何処に行くんですかぁ? はっ! まさか帰らないつもりで――」

「いいから黙ってて」


 数は少ないが、通行人の目が痛く、すごく恥ずかしくなり。

 結衣は顔を真っ赤にしながら駆け足した。

 絶対、大きな声で独り言を発している変な子だと思われただろう。


 結衣はしばらくガーネットにどう反省させようかを考えながら歩いていると。

 さっきより大きな道に出たにも関わらず、まるで人の気配がなかった。

 ――学校内に足を踏み入れた時と同じような感覚が襲う。


 だけど、これは――


「……学校の時のより……嫌な感じがする」


 重苦しい空気が結衣の周囲を覆い、妙な圧迫感に包まれる。

 すると、結衣の視界に映ったのは。


「ま、まさか――せーちゃん!?」


 深緑色の長い髪に、空色のフリルを纏った少女。

 その少女が、道端に倒れていたのだ。


「な、なん――」

「はぁあ……ようやく会えましたねぇ」


 結衣の困惑の声はだが。

 頭上からため息と共に発せられた声によって、かき消される。


 その声の主は――天使だった。

 純白の翼に檸檬色の髪、アクアマリンの瞳の年上のような少女の姿がある。


「はぁい♪ 私が星良さんを襲った犯人でーす!」

「――……は?」

「んふふ。その困惑顔――たまりませんねぇ」


 ジュルリと舌なめずりをしながら嗤うその様は、もはや天使とは呼べない。

 それは、まるで――悪魔のようだと結衣は思った。


「あ、あなた……一体何を企んで――」

「いやぁ、それがですねぇ。この子にはちょーっとお仕置きしてる最中なんですよぉ」


 「だから……」と付け加えて。


「邪魔しないで貰えます?」


 笑みを消して無機質な瞳が結衣に注がれ、万物はそれに従うように静まり返る。

 圧倒的な威圧感――これが、今回の……結衣の――


「よくも……せーちゃんを……!」

「はい?」


 結衣が小さく呟いた声は、少女には聞き取れなかったのか。

 小首を傾げながら結衣を見る。

 結衣はそんな少女の、一挙手一投足すら怒りを覚えて。


「絶対に――許さない!」


 突如、結衣の視界が暗転した。

 その僅かな時間に――少女が薄く嗤ったのを、結衣は見逃さなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る