第9話 友だちになろうよ!

「うっ……ここ、は……?」

「あ、目が覚めた?」


 猫耳の少女は、頭を押さえて立ち上がる。

 そして、結衣が声をかけたことに驚いたように目を見張る。


「あ、あなた……は……」


 気まずそうに、猫耳の少女は結衣から目を逸らす。

 それもそうだろう。何せ、殺そうとした相手が目の前にいて、しかも自分は殺されていないのだから。

 しかし結衣はその子の肩を優しく掴み、笑顔で問う。


「ねぇ、あなたの名前は?」

「え……」


 その子はひどく困惑した様子で、目を見開いている。

 そして、拙く呟いた。


「あ、えっと……水無川みながわ真菜まな……」

「そっか、じゃあ真菜ちゃんだ! 私は椎名結衣! よろしくね」


 結衣は一層笑みを深め、誰もが見惚れるような顔で挨拶をする。


「よ、よろしく……って! いい……の? 私……殺そうとした、のに――あ、いや、力を手にした途端……何も考えられなく……なっちゃったん、だけ……ど……」


 と、猫耳の少女――改め、真菜は口ごもるように言う。


「こ、怖くない……の? それに……私が負けたから……と言って、また……あなたを狙わない、とも……限らない……のに……」


 とても不安そうな顔をしながら、瞳を揺らす。

 だが、結衣はグラウンドを見回しながら――こう言った。


「だって、ここに倒れている人達さ、みんな眠ってるだけみたいだし。うーん……なんだろう? 真菜ちゃんがそんなに悪い子にも見えなかった――みたいな?」

「全然分かりませんけどぉ……」


 結衣が意味不明な説明をすると、ステッキからのツッコミが来た。

 そのツッコミを受けて、結衣は苦笑する。そして、そう思った根拠を説明する。


「あ、あはは……だってさ、真菜ちゃんがやろうと思えば、この人たちを殺すことも出来たわけでしょ? だからかな」

「っ――!」

「なるほどぉ……まあ、結衣様がそう言うなら、そうかもしれませんねぇ」


 真菜は、まだ何やら言いたそうに口を開けたり閉じたりしていた。

 だが、結衣はそんな真菜に、笑顔を浮かべながら――手を伸ばす。


「友達になろ?」


 そう言って結衣が差し伸べた手を――真菜は、太陽のような笑顔で、握った。

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