第8話 どんなことだって、願えば叶う!

 そして――と、視線を変える。

 すると、猫耳を付けた人が、いつの間にか結衣と距離を保ちながらグラウンドの真ん中にいた。

 その人は、血のような赤い眼で結衣の様子を窺っているのがわかる。


 金色の――陽の光に負けていない煌びやかな髪の毛は、飾りでしかないのではと思うほど異様な眼。

 血を欲し、血に塗れ、そのものが血であるかのような不気味な瞳。

 ――結衣は、ゾクリと背筋が凍るような錯覚に見舞われる。


 だが、結衣はその赤い眼に、深い翠の瞳で応える。

 あらゆるものを全て包み込むような深く、優しい翠。


 しかし、今はその色を鋭く光らせていた。

 そしてまたチラリと視線を変えると、グラウンドに倒れている人達をその瞳が映す。


「ステッキ…………あの人は、関係ないみんなを巻き込んだ。そんな人に、あなたを奪われるわけにはいかない!」

「結衣様……! へへへ、嬉しいです……ならば! 私もその“願い”、応えてやらないわけにはいきませんねぇ!」


 そう高らかに叫ぶと、一直線に敵へ接近した。

 遠距離戦ではなく、近接戦へ持ち込むことにしたのだ。

 しかし、今もなお降り注ぐ矢の嵐は止まることを知らず、結衣を殺さんとして迫ってくる。


 だが、そんな簡単に殺られるほど、結衣はヤワではない。

 次はどうしようかと考えながら、矢の嵐を見やる。


 治癒も防壁も、願うだけで、イメージするだけで自分のものとして扱うことが出来た。

 ならば――


「どんなことだって! 願えば、叶う! ――増幅ブースト!」


 ヒイイイィィンと言う音を伴って急加速した結衣の身体は、物理限界さえ突破しようとしていた。

 そしてこれは取っておき、と薄く笑って――


「ステッキ! 行くよ! ――認識阻害シャットアウト!」

「……! なるほど! 了解しましたぁ!」


 結衣の言葉の意図が分かったらしいステッキは、一層高らかな声を出す。


 そして、認識が阻害された結衣を見つけることは叶わなかったのか、敵は不気味な瞳で焦るように辺りを見回す。


 だが、結衣は敵――結衣と同じぐらいの歳の少女の姿を、少女の真後ろから捉えた。


「全力全開!! ――大砲バング!」


 魔法で編んだ大きな鉄砲玉――のようなキラキラした何かを、獣耳の少女にぶつける。


 ぶつける前に、ようやくこちらを見据えた少女は、一度も表情を変えることなく佇んでいた。

 だが、その時一瞬――ものすごく、悔しそうな顔をした…………ような気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る