第10話 なんでこんなことに……

 真菜と友だちになった翌日。

 結衣は機嫌が良さそう――に見える様子で、スキップしていた。


「こんにちは、椎名結衣です! 魔法少女やってます☆」


 キャピキャピした――小学生という若さを糧に、存分にいい笑顔でくるくる踊る結衣がいた。


 人通りが少ないとはいえ、決してゼロではない静かな道路。

 ポツポツと、細々と家が建っている――田舎とも、都会とも言えない微妙な場所。


 青い空が周りを包み、白い雲が優しく漂う真昼。

 そこに場違いな――意味不明な言葉を発する少女がいたらこうなる。

 すなわち……


「ってアホかあぁぁあー!!」


 野次馬が出来ていた。

 ……と言うより、遠巻きに「近寄らんとこ……」という思いが聴こえるほど、ものすごく異様な光景がある。


 結衣はものすごく大きな声で、電柱に拳をぶつけていた。

 マンガやアニメでは電柱にヒビが入るか、電柱が倒れるかするだろうその光景は……

 だが、結衣が痛がっているのが見てとれたため、それはないだろうと却下された。


 そしてその異様な光景に周囲に群がっていた人々は、既に全力で引いている。


「もー、何やってんですかぁ」


 突如として現れた謎の物体に、周囲の人々はさらに警戒する。

 しかし、咄嗟に身構えた人々を嘲笑うようにして消えた。

 物理的な意味でも――記憶からも。


 そうした張本人たちは今、空を漂っている。

 いつの間にか、結衣の拳からは血が消えていた。


「はああああ……」

「うっふっふ。どうしましたぁ? 疲れた顔してぇ」

「ほんとに疲れたよ……」


 ――結衣は、魔法少女をやっている。

 魔法少女になったきっかけは――この上機嫌でウザい魔法のステッキのせいだ。

 しかもなんの説明もなく戦わされ、魔法を扱わされた身にもなって欲しい……と結衣は思う。


 魔法少女に憧れていたのは否定出来ない。

 図書室で読んだ本にも載っていたし、アホステッキが願いを叶えてくれるとも言っていた。


 ……のだが――突然戦闘を強いられ、相手からはすごい殺意が感じられ、怖かった。

 ――いや、怖いなんてものじゃない。恐怖でどうにかなりそうだった。

 あんな怖い思いなんてもうしたくない。


 だけど――

(それじゃあ、このステッキは……)


「おや? どうしましたぁ?」


 小首を傾げるような仕草をして、結衣を見つめる。


「……なんでもないよ」


 結衣は薄く笑って答える。

 自分はとんだお人好しだったようだ。と、呆れていた。

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