第三軍創設の相談

 ライルの持ち込んできた話にある程度結論がつき、課題も見えてきたところだ。ガムドはグルドのもとに行くことが決まり、話し合いが終わり次第、向かうことになった。ガムドが不在の間にも第三軍の設立を進めておかなければならない。


 とりあえず、僕は未だ体調を崩しているハトリを寝室に運ぶようにオコトに命じた。護衛に穴が開くと心配していたが、この屋敷にはシラーが常駐している。何ら問題はないだろう。オコトは渋々と言った様子でハトリを軽々と担ぎ、部屋を出ていった。本当に恐ろしいのはハトリよりオコトだろうな。あの妖艶な姿だからこそ来る恐ろしさを感じた。それと、クレイを呼び出すように頼んだ。


 ライルやガムドもオコトの恐ろしさというのを肌で感じたのだろうか、二人共オコトが部屋から出るまで緊張したような表情で後ろ姿をずっと見つめていた。僕も当然後ろ姿を見つめていた。やはり、後ろから見てもスタイルが美しいな……。


 「さて、話を戻そう。ガムドにはこれからグルドのもとに向かい、防衛についてよく相談してもらいたい。グルドには軽挙に出るなとだけはちゃんと釘を差しておいてくれよ」


 ガムドは少し苦笑いをしながら、承知しましたと静かに言った。グルドのことだ、王国軍が近付いているかも知れないと聞いたら、むしろ相手の出先を討つと言って駆け出していってしまいそうなイメージがあるからな。


 本題は第三軍の設立についてだ。公国内では、軍隊と呼べるものはライル率いるものしか存在しなかった。そこにグルドやガムドが参入したことによって、グルドが率いる軍隊をそのまま公国に編入させた形になっている。僕はそれを第二軍と呼んでいる。今回は完全に新設の軍隊だ。当然、指揮にガムドを当てるつもりだ。王国と平地で接しているのは北と南のみで、それぞれ第一軍と第二軍とで防衛に当たってもらう予定だ。


 第三軍の性質は予備軍だ。それを作ることによって、流動的な軍の運用を可能としてくれるだろう。僕はガムドに第三軍の設立についての話を聞くこととしたら、クレイが執務室に入ってきた。随分早かったが、話が重複しないで済むので助かるな。僕はクレイに席を与え、再びガムドの話を聞く姿勢を取った。


 「第三軍の中核は私が連れてきた兵千人を当てるつもりです。立ち上げ時は三千人規模とし、将来的には五千人規模としていきたいと考えています」


 ふむ。となると、新たに二千人を集めなければならないのか。この二千人についてはどういう性質なのだろうか。公国の人口は11万人だ。それに対して、軍に所属している人数は一万人を超える。人口の一割だ。公国としてはおそらくこの辺りが軍に割ける人数の限界だろう。もう少し増やしてもと思うかも知れないが、公国の年齢別で見ると成人が恐ろしく少ないのだ。公国の人口の殆どが移住者だ。各地に取り残された子供や老人が大半を占めている。


 軍人として使えるのは成人のみだ。そうなると、労働人口という点では人口を賄うだけの食料生産をするには心許なくなっているのだ。もちろん、数年後は状況は大きく変わっているだろうが、考えるのは今なのだ。二千人を新たに集めるとしても、労働人口が減ってしまうことは正直つらいところだ。


 「私もそれについては悩んでおります。中核である千人はともかく、新規に集める二千人については普段は農業をやってもらい農閑期などに訓練を行うという事を考えています。そうすれば、食料生産への影響は警備に住み、軍としての質も最低限維持できるものと考えています」


 やはりガムドも僕と同じようなことを考えていたか。それしかないだろうな。そうなると、新たに集める者たちはラエルの街近郊の住民ということになる。そうなると必然的に新村に注目せざるを得ない。僕がクレイに話を振り、二千人について話を聞くことにした。


 「私としては、第三軍の意義についてはよく理解しているつもりだ。なんとか二千人を集めるつもりだが、こちらも漁業が始まることを受けて、大人数をそちらに割いているのだ。農業もこれからというところで人手も必要となる。そのため、集めることが出来ても夏までは訓練に参加させられないことになるが」


 やはり、なかなか上手くはいかないものだな。とはいえ、クレイに頼らざるを得ない状況なので、兵を集めることをすぐにやってもらうことにした。これで、一応は目処が付いたと見ていいだろう。王国との戦争を念頭に置かねばならないのは本当に厄介なことだ。


 ガムドが不在時の兵千人の指揮官を僕に紹介するという話で、一旦はライルが持ち込んできた王国軍の動きについての話は終わった。話が終わったことを受けて、ライルとガムドはそれぞれ北と南に別れ防衛地へと急ぎ向かって行くことになった。


 そういえば、スタシャに言われたことを思い出した。忘れなくてよかった。


 「ライル。スタシャに頼んでいた貫通弾が半分だけ完成したと言っていたぞ。それを持ち出してくれと催促までしてな。今回持っていくか? ちなみにだが、王国軍の動きを見越して発注したのか?」


 「そいつは有り難い。しかし、今回は北に運び込んだほうが良さそうだな。危険性としては北のほうが断然高いような気がするからな。使い方については、精通しているものを北に送ろう。その者に聞くといいだろうな。スタシャさんに頼んだの偶然だ。王国の動きを察知してから頼んでも、間に合っていなかっただろう」


 勘が働いたということなのだろうか。何はともあれ、貫通弾があれば攻撃力という点では飛躍的に向上することができる。きっと、北でも役に立つことだろう。ガムドはライルに礼を言って、貫通弾の引き渡しを自らがすることに了承していた。


 僕はライルとガムドを見送り、残されたのは僕とゴードンだけだった。僕はゴードンと共に居間に向かうと、そこにはガムドの娘ティアと妻のトニアがお菓子を食べながら皆と談笑をしていた。あれ? ガムドは行っちゃったけど見送りとかしなくても良かったのかな? ああ、すでにしているから大丈夫なのね。そうですか。


 トリアとティアはゴードンに会ったことがあったはず。改めて紹介することもないが、ティアについては言わなければならないことがある。


 「ゴードン。実はな、ティアのことなんだが、婚約することになったのだ」


 「ほお、それはおめでとうございます」


 あれ? それだけ? もっと、小言を行ってくるものだと思っていが、拍子抜けしてしまうな。


 「そんなに意外ですかな? ティア嬢との婚約は良縁だと思いますぞ。お互いの気持ちは重要だと思いますが、どうしても対外的なことを気にしてしまうのは悪い癖なのですが。ガムドさんは今後公国の重責を担う地位になられるお方になるでしょう。そのお方の令嬢とロッシュ村長が結ばれるのです。これほどの良縁はなかなかないと思った次第なのです」


 そうか。まぁ、ロッシュが歓迎してくれるというのなら、あまり突っ込むのは止めよう。ティアはゴードンに挨拶をしてからソファーに戻ろうとしたのだが、僕はそれを止めさせ執務室に来るように言い、僕とゴードンとともに向かうことにした。トリアにも聞くと、ティアに同行すると言うので来てもらうことにした。


 これから話す内容は学校設立についてだ。こんなことでもゴードンに頼らなければならないのだ。早く代わりのものを見つけ、楽させてやりたいところだが。


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