学校設立の相談

 ライルとガムドは急ぎ王国軍に対応するために所定の場所に向かっていった。残された僕とゴードン、それにティアとトニアは執務室に向かうこととした。ティアについては今日話さなくてもいいと思うのだが、ゴードンに早く話を通しておいたほうがいいと思ったのだ。まぁ、偶々屋敷にいたという理由が一番だが。


 「ゴードン。前々から計画している成人前の者たちを教育するための学校設立を進めたいと考えているんだ。もちろん、何年か時間はかかるだろうが近い将来、必要となることは間違いない。今から着手しておきたいのだ。そこで、ここにいるティアを学校設立の中心的なメンバーにしたいと思っているのだ」


 「ほお。ティア嬢を、ですか。反対をするつもりはありませんが、理由を伺ってもよろしいですか?」


 「うむ。僕は前々から学校の仕組みについてばかり考えていたが、どうしても理念を置き去りにしてしまっていたのだ。それを気づかせてくれたのがティアなのだ。まだ若輩者ではあるが、学校に対して正しい理念を持っていると僕は思っているのだ。是非とも、その理念を実現したいと思っているのだ」


 「理念ですか。なるほど。それは我々が考えるよりもこれからの者たちが考えたほうがいいのかも知れませんな。ティア嬢の理念というのは大変興味があるのですが、ロッシュ村長が認めていらっしゃるのですから、また後日といたします。学校建設となると……」


 ゴードンは学校建設にとって必要なことを、考えうる限り言葉に出し始めた。学校に必要なのは教師と教材だ。それがあれば、青空教室だって立派な学校になる。しかし、それはあまり現実的ではない。当然、箱が必要となってくる。ゴードンはやはり難しいのは教師の確保でしょうか、と言ってきた。そうだろうな。しかし、その点は問題を解決してあるのだ。


 「実はな、その点については問題を解決している。ゴードンと視察の旅について報告をする時に話そうと思っていのだが、良い人材を探し出してあるのだ。今はサノケッソの街近くの森にいるはずだが、近々、ラエルの街にやってくるだろう」


 僕が言っているのは、スータンが率いる公爵領からやってきた集団のことだ。彼らの素晴らしいところは学歴がずば抜けていることだ。高等教育を卒業したものが多数おり、教員としては申し分ない者たちだ。僕はそれにティアの理念が合わされば、素晴らしい学校が出来るのだと達観している。


 「それは凄いですな。こんな田舎では高等どころか初等だって数が少ないですからな。そうですか。そういった者たちが公国の学校に携わってくれるのは有り難いことですな。しかし、そこまで決まっているのであれば、学校の設立など、時間がかかりますまい」


 そうなるな。教師がいて、学校という箱が出来れば学校設立は達成できよう。それこそ、半年も見ていれば出来てしまうだろう。しかし、僕は公国に住まう子どもたちには広く教育に触れて欲しいと思っているのだ。ただ、それをやれば、公国の産業は破綻しかねない。やはり成人不足が大きく足を引っ張る。学校の候補地はラエルの街か村を考えている。そうすると、子供を簡単に通わせるというのが難しい。


 その辺りをどのように問題を解決していくか。それをティア達、学校設立を任せる者たちに考えてほしいのだ。学校を一気に各街や村に作るか、とりあえずラエルの街か村周辺の子どもたちだけを優先して教育を始めるか。そのためには各街や村を巡り、様々な意見を集約していかなければならない。


 「それもそうですな。いやはや、私自信が公国が大きくなって付いていっていないところがありましてな。ロッシュ村長の言い分はごもっともですな。ティア嬢には、いくらか仕事の内容が重いような気がしますが、大丈夫ですかな?」


 そういうと、娘の代わりにとトリアが話をしようとしたが、ティアはそれを遮り、緊張した面持ちで話を始めた。


 「私は正直言って、覚悟が甘かったようです。ロッシュ様がそこまで考えていらっしゃっていたとは思ってもいませんでした。でも、ようやく覚悟が決まりました。私、学校設立のために全力を尽くしたいと思います。ゴードンさんにも色々と迷惑を書けるかも知れませんが、よろしくお願いします!!」


 ティアは真剣な表情でゴードンに話していた。やはり、ティアに頼んだのは正解だな。ゴードンも強く頷き、公国のために頑張りましょう、とティアを励ましていた。横にいるトリアが少し涙ぐんでいるのが、僕の胸に何か来るものがあった。子供の成長を喜ばない親はいないだろう。ガムドはティアの成長を見れずにあとで後悔するだろうな。僕はティアの今後について考えることにした。


 「ティアには、マリーヌの残してくれた教科書を精査してもらいたいと思っている。といっても、なかなか難しいことが多いだろう。だからマリーヌの元に向かって、話を聞いてきてほしい。スータン達が到着すればやれることも多いだろうが、今もやれることはあるだろう。とにかく勉強をするんだ。いいな?」


 ティアは力強く頷いた。あとは、スータンが来てから決めていけばいいことだろう。学校設立がこうも順調に運んでいくとは予想だにしていなかったな。僕が考えにふけっていると、ティアが僕の方を見つめていた。僕がどうした? と聞くと、ティアが不思議そうに話しかけてきた。


 「そう言えば、ロッシュ様はどこで学問を学ばれたのですか? こう言っては何ですが、ロッシュ様の年齢でこれほどの国を立て直したという話は聞いたことがありません。きっと、相当な学問をしたと思うのですが」


 「おお、それは気になりますな。私もその話が聞きとうございます。なにせ、数年前までは屋敷に篭っていたのがほとんどでしたからな。私も不思議に思っていたのです」


 なるほど。周りから見ればそのように映っていたのだな。さて、どうしたものか。僕が転生者で、別の世界から来た爺であることを伝えることも考えたが、ゴードンには悪いがやはり妻になるものだけに伝えることにしよう。今はそれが最善であるような気がするのだ。


 「僕がどのように学問をしたか気になるか? こればかりはなんとも言い難いのだが、夢で学んだのだ。毎晩寝ると、必ず現われる不思議な御仁がいてな。その者に講義をしてもらうのだ。この公国で行ってきたの多くはそこで学んだことだ。信じられるか?」


 二人共、呆然としたような顔をして僕の顔を見つめていた。それはそうであろうな。僕だったら一笑に付しているところだ。むしろ、為政者として大丈夫なのだろうか、と疑問に思って然るべきところだ。しかし、二人はとても純粋なのだろう。僕の言葉にあまり疑いを持っていない様子だ。特にゴードンが感動した様子だ。


 「やはり、ロッシュ村長は只者ではないと思っておりましたが、そんな秘密がおありだったとは。その御仁とやらが気になりますが、きっと神様か何かかもしれませんな。神様がこの世界を救うために、ロッシュ村長に教えを与えていたのだとしたら合点がいきますな。いやぁ、これは公国の伝説として刻まれることでしょう」


 絶妙にゴードンの推理は当たっているような気がするのが面白いな。まぁ、信じてもらえたのならば良しとしよう。若干、話が大きくなっているような気もするが、大した問題ではないだろう。ティアは呆然とした顔から一転して尊敬の眼差しを向けるようになっていた。少し申し訳ない気持ちになってしまうが、いずれティアは真実を話す時が来るだろう。その時、どのような表情になるのか少し怖いな。


 それからも学校についての予備知識を聞いたりしながら時間を過ごした。とうとう気づいたら夕飯の時間となっており、ゴードンは自宅に戻らねばならないと言うので一旦解散ということになった。また明日、改めて報告ということになった。


 その晩はトリアとティアと共に、オコトの料理に舌鼓を打ちながら、楽しい食事をした。明日の報告を聞いたら、僕も動き出さなければならないだろうな。そんなことを思いながら、家族との大切な時間を過ごしていた。

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