魔牛牧場

 ミヤの眷属達が召喚され、彼女らは、新築の家で休息をとっている間に僕は魔の森近くで畑を作ろうとしていた。

 

 「ロッシュ、少しいい? 農地を作るのなら、魔素が豊富な場所がいいわよ」


 魔素? 聞いたことがない単語が出てきたぞ。


 「ロッシュ、知らないの? 魔素というのはね、魔界にある物質なの。この魔の森は魔界と繋がりやすい土地だから魔素が溜まりやすい場所なの。魔に属する者は、基本的に魔素のある場所でしか活動できないのよ」


 「へぇ〜じゃあ、ミヤも魔素がないところでは生活できないのかい? 」


 「いいえ。私達のような、魔族は、魔素がなくとも生きていけますよ。魔獣のような低位のものが生活できないだけよ。現に、私は魔素がなくとも平気にいられるじゃない!! 」


 それもそうだな……


 「私が言いたいのは、魔獣は、魔素を含むエサしか食べないっていうこと。だから、牛の魔獣を飼うのだったら、エサとなる牧草を栽培する必要があるわよね。そこは、魔素を含む土地でなければならないということよ」


 なるほどね……それを聞いといてよかったよ。でも、魔素が含まれるかどうかなんて、わからないぞ。


 「大丈夫よ。魔族なら、それが匂いでわかるから。ちょうど、私達が立っているところが境界線よ。ここから、魔の森の方に行くに従って魔素が濃くなっていっているわ」


 へぇ。同行していたライルが急に間に入ってきた。


 「ここは……前に報告があった、魔獣が引き返すラインに近いな」


 「ええ。その通りよ。魔獣は、魔素のない土地を本能的に嫌うからね」


 魔獣にそんな特性があったとは……村が魔獣に襲われる危険性はもともと少なかったわけか。この壁も無駄になってしまったな……


 「魔素が入った作物って美味しいのかな? ミヤは食べたいと思う? 」


 「もちろんよ。ロッシュ。魔に属するもので魔素が入っている作物を食べたくないものなんているわけないじゃない!! 」


 そうなんだ。ミヤの好物なら、牧草以外にも、野菜を少し作ってみるかな。僕達が食べている野菜でいいのかな? ミヤに聞くと、大丈夫じゃないかとのこと。


 方向性が決まったな。あまり魔の森に近づきたくないから、ギリギリのラインに畑を作って、牧草は魔の森から採取して、移植してしまおう。種がない以上はそれしかないからね。あとは、野菜の種をもらってきて……今回は、大根とほうれん草、キャベツの種を撒いてみよう。どういうのが出来るか、楽しみだな。


 これで、あとは、牛舎をつくれば、牛の受入れが整うな。牛舎は、レイヤに頼んであるから、しばらくはかかるが、完成するだろう。


 牛舎の完成の報告がきた。ミヤの眷属たちは体力をほぼ回復して、牛捕獲作戦に参加できるみたいだ。


 ミヤの方から、眷属のリーダーを紹介された。彼女は、今いる眷属の中では最古参らしい。ちょっと気弱そうだけど、学級委員長にいそうな感じだ。もちろん、美人だ。


 「彼女が、眷属を率いることになったわ。名はまだ付けてないのよ。だから、ロッシュ、彼女に名を付けて頂戴」


 ええ!? 急に振られてもなぁ……なんで僕が? と思ったけど、ミヤがどうしてもって言うんで……莢……サヤにしよう。


 「君の名前は、サヤだ。よろしく頼む。君たちの行動は常に見られている。嫌な思いもするかもしれないが、頑張って欲しい。よろしく、皆をまとめてくれ」


 「かしこまりました。これからは、ロッシュ村長とお呼びします。そして、姫様、私を選んでくれて感謝します。身命を賭して頑張りたく思います」


 「ふふっ、これからは村の仲間。ミヤと呼んでもいいのよ」


 「滅相もありません。では……ミヤ様と」


 ミヤは、好きにしなさいとばかりに軽く頷いた。僕達は、牛の捕獲を開始した。


 以前、森に入った時は奥にいかなければ、魔獣に会うことはなかった。しかし、サヤ達が誘導してくれたおかげで、牛の魔獣が続々と集まりだしてきた。軽く100頭はいるだろう。サイズも大きい。サイ系の魔獣ほどではないが、通常の牛の倍はあるだろう。高さ3メートルほどの巨体が100頭は圧巻だった。


 自警団が牛たちを囲い森の外に誘導すると、すんなり外に出ていった。ミヤの言う通り臆病なだけで、獰猛な印象を全く受けない、従順な感じだ。自警団は、牛舎手前の囲いの中に牛たちを入れると扉を占めた。捕獲成功だ。


 あとは、移動するための鼻輪を取り付けて……念願だった、農耕用と輸送用の牛が手に入った。まずは、この牛の呼び名だが、魔牛と呼ぶことにした。サヤたちには、魔牛の飼育と魔素地の耕作、魔牛の運用を任せることにした。


 魔牛に取り付ける、耕運のすきと輸送用の荷台の製造を、急ぎカーゴに依頼した。鉄は、まだ在庫があるから何とかなるだろう。荷台が完成したら、早速、鉄の採掘場から鉄を運び込む段取りをしよう。


 サヤ達にあとを頼み、ライルとエリスを連れて鉄の採掘場に向かった。採掘場はずっと放置されているようだったが、洞窟の中は通路がしっかりとしており、奥まで向かうのに苦労はなかった。最奥に着くと、採掘途中の状態の岩石がむき出しになっていた。


 僕は、露出した岩石から、鉄を取り出すイメージで土魔法を使うと、いとも簡単に鉄を取り出すことに成功した。しばらくの間、鉄を供給できるだけの鉄を採掘することにした。石灰のときと同じように洞窟内に倉を作って、鉄塊にして、山積みにした。数千トンは確保できただろう。しかし、この採掘場は、鉄の含有量がものすごく多いな。

 こんな鉱山が近くにあるのはすごく幸運だった。


 鉄の精製を終わらせると、僕達は村へと戻った。僕はライルに教わり、一人で馬に乗ることが出来るようになっていた。エリスは僕の後ろに座り、体を預けてくれた。密着する時の感触はたまらないなぁ。


 村に戻った僕はサヤ達を呼び、鉄輸送の段取りをお願いした。これで、村に鉄が運び込まれることになるだろう。


 徐々に、生活水準を上げる準備が進んでいるよな。そろそろ、冬篭りの準備を始めなくては……その前に、野菜を収穫し、魔の森で魔獣を狩って、保存食として加工しなければならない。村総出での作業となりそうだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る