吸血鬼の眷属

 ミヤから、待望の牛の情報を手に入れた。是非、村にほしい。僕は、ミヤに牛捕獲の助言を求めた。


 「そうね。何頭捕獲するかによるけど、捕獲する人、それを護衛する人が必要となるわ。牛自体は、気性は穏やかで好戦的ではないから自警団の者たちにおまかせおけば大丈夫よ、きっと。しかし、自警団では護衛となると役に立たないわね」


 たしかに、魔の森の魔獣はとてつもなく強い。村人には対抗できるものはいないだろう。僕だって一対一なら何とかなるかもしれないが、群れとなるとまだ経験が不足しているせいで、対処が出来ないだろう。昔、魔の森で狩りをしていた冒険者がいればいいが……すぐに見つかるか分からないし、見つかっても協力を得られるか、わからない。無理をすれば、自警団に死傷者が出てもおかしくないだろう。前回だって、無事だったのは奇跡的だったのだから。


 「私の眷属を呼んでみましょうか? 私が、魔界を脱出した後のことが分からないので眷属達がどうなったか分からないけど……生きていれば、反応してくれるわ。どうする? 言っておくけど、眷属も吸血鬼よ」


 僕は悩んだ。


 「ミヤ、2つ質問がある。その眷属は、ミヤに忠実なのか、と魔の森でも護衛として務まる実力なのか? 」


 「私との眷属契約をする時に、私の意志に逆らわないことになっているから、そのあたりは大丈夫と言えるわ。当然、裏切られたこともないわ。強さはそうね……魔の森でも十分に戦えるでしょう。魔の森と比べ物にならないほどの魔獣がいる世界で、狩りをしてたもの。護衛くらいは簡単に務まるわ……」


 これ以上、魔族の移民を増やすのは徒に軋轢を生むかもしれない。しかし、魔の森は、今後、村を発展させていくには必要な土地だ。そのためには、魔族の協力は不可欠だ。まずは皆と相談してからにしよう。


 僕は、後日、ゴードンを呼び出し牛の件と魔族の件を話した。牛については、賛同を得られたが、魔族については難色を示した。やはり、昨日今日で魔族が増えるのは好ましくないのだろう。僕は、魔の森と村の境界の壁の外側に住まわせる条件で魔族を呼ぶことを提案すると、それならば、村人を説得できるかもしれないとゴードンが賛成してくれた。


 あとは、ゴードンに任せておこう。数日してから、ゴードンが村人が魔族を受け入れる真意を僕の口から聞きたがっていると、伝えてきた。


 僕は尤もだと思い、すぐに村人を集めた。村人の殆どが参加してくれた。


 「皆、忙しいのに集まってくれて申し訳ない。今回、集まってもらったのは魔族の件だ。先日、吸血鬼のミヤを村に受け入れた。いろいろと皆が不安に感じていることは理解しているが、私がミヤを信じるように、皆にもミヤを信じてもらいたいと思っている。長い目で見て欲しい。


 次に農業に必要不可欠な動物の目処がたった。それが魔の森だ。魔の森の魔獣を農業に利用しようと考えている。無論、僕にとってもこの案は分からないことが多い。だから、魔の森の境界線に畑を作り、魔獣が農業に適しているかを実験したいと思っている。皆に、危険が及ばないように徹底的に管理するつもりだ。


 最後に、その魔の森で魔獣を捕獲するために、魔族の力を借りる必要性がある。先日の魔の森では、我々の力では、とても立ち行かなかった。その魔族とは、ミヤの眷属だ。ミヤは元王女に当たる。忠実な眷属だというが、当分は村に入れるつもりはない。魔の森付近で住んでもらおうと考えている。

 僕からは、以上だ。皆の理解があることを望んでいる。」


 一同が、静まり返っている。ぼそぼそと声が聞こえ始めた。


 「村長さんが信じるなら、オレは従うぜ。」


 ライルが声を上げてくれた。すると、口々にライルの意見に賛同する声が大きくなっていった。

 


 ライル、助かったぞ。まずは、一歩進んだ。魔族が村の一員になれば、どんなに素晴らしいことか。ミヤと話して、魔族と仲良くなることが出来ることを知った。エリスと話して、亜人がどんなに素晴らしいか知った。僕達は、他の種族が力を合わせ笑い合えるような村を作りたい。その、一歩だ。


 村人の賛同を得たと判断した僕は、レイヤを屋敷に呼び出した。ミヤの眷属が住む住居の設置を急がせることにした。とりあえず、10軒程を用意しよう。冬までの時間を考えると、それが限界だった。


 一ヶ月が経った。突貫で進めていた住居建設が終わったようだ。建材の在庫が、大分無くなってしまったらしい。そろそろ、建材の調達も、し始めないといけなくなった。


 「ミヤ、時間がかかったけど、眷属を呼んでくれないかな。村に住む場所を与えられなかったことは申し訳ないと思う。眷属を呼ぶのは、僕の我儘みたいなものだ。許して欲しい。」


 「ロッシュ、それは何度も話し合ったじゃない。私は、何も気にしないわ。むしろ。眷属を呼ぶことを許可してくれて、感謝してるくらいなんだから。それじゃあ、眷属を召喚するわね」


 ミヤが召喚を始めると、ミヤの周りに魔法陣が何十も浮かび上がり吸血鬼が現れた。みな、座り込み、うなだれている者ばかりだった。


 ミヤが、近くにいた吸血鬼に話しかけていた。


 「あなた達、その姿は……ザリューにやられたのね!! シュリーはいないの? 」 


 話しかけられた吸血鬼は泣き崩れた。


 「姫様、申し訳ありませんでした。シュリー様は、我々を逃がすために自ら囮になって……我々は、恥ずかしながら、結局捕まってしまい、牢屋に閉じ込められ、死ぬのを待つだけの身になってしまいました。もはや、我が国は、ザリューの物となってしまいました。」

 

 「そう……我が眷属は、ここにいるのが全てなの? 」


 「おそらく、全てではないかと思います」


 「よく頑張ったわね。今は休むがいいわ。我が主に回復魔法を掛けてもらったほうがいいわね」


 「姫様の主!? ご結婚なされたということですか!? お相手は……人間ではないですか……」


 「私が認めたのよ。あなた達にも認めて欲しいわ。」


 「我々は、姫様の眷属。姫様が認めたものを認めぬわけありません。主殿、是非、回復魔法とやらを使ってください」


 僕は、ずっとその光景を静観していた。僕はいつの間にミヤと結婚したことになったのだ? しかし、否定できるような雰囲気ではなく、成り行きを見守ってしまった。


 回復魔法を使って、ミヤの眷属たちを治療していった。ミヤの眷属は皆、女性だった。それも、すごく美人だ。ミヤには劣るが、それでも、男なら振り返ってしまうだろう。ん〜、吸血鬼という種族は、美人揃いなんだな。それとも、ミヤの趣味によるところが強いのかな?


 治療を終えた吸血鬼たちを、新築した家に、どんどん運び込んだ。人数は、30人にも及んだ。殆どが、体力の消耗だけで、大した怪我はしていなかった。しばらくは、体力を戻してもらい、今後のことは、それからにしよう。ミヤには、ここのリーダーとなる人を選定するように頼んだ。ミヤがなるんじゃないの? って? ミヤはうちのメイドだよ。


 ミヤは、自分もここに住むと思ってたみたいだから、びっくりしていた。冗談で、君は僕の妻なんでしょ? って言ったら、すごく顔を赤くしていた。こんくらいの悪戯は許されるよね。

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