収穫祭

 魔の森に関わってから、変化がたくさんあった。ミヤの眷属の参入や魔牛の導入、鉄採掘の開始、魔牛による農作業が始まったりした。村の運営には、大きな影響のある出来事だ。来年の農業は大きく変わることだろう。冬に入ったら、計画を練り直そう。冬が待ち遠しいな。


 夏に、植えたジャガイモが、ついに収穫を迎えることになった。村人総出での、収穫だ。なんとか、2日で終わらせることが出来た。皆、収穫を喜んでいる。ジャガイモは、レイアが建築してくれていた大倉庫に搬入され、冬の貴重な食料となる。他の野菜たちも、順次、収穫し、大倉庫に移された。


 この秋の収穫は相当なもんで、予定していた収穫より多く取れたため、建設した倉庫では足りずに、空いた家などに野菜を詰め込む騒ぎとなった。それも、なんとか片付いた。今年の作物は、あと、来年収穫するために麦のたねを撒くだけとなった。


 作物がなくなった畑は、本格的な冬になる前に、区画を切り直して、整地しておくつもりだ。整地した後、土をひっくり返して、冷たい風に当て、土を休ませる作業をしておく。そうすることで、翌年の病気が出にくくなるのだ。

 我儘を言えば、魔牛でそれを行いたいが、まだ、村人の信頼を獲得していない。無理に行えば、修復できない亀裂が生じるかもしれないからな。


 後日、朝早くにゴードンが、屋敷に訪れた。エリスもニヤニヤしている。いつもと、違う雰囲気に、僕は身構えながら、ゴードンに対応した。


 「ゴードン、今日はどうしたんだ? その笑ってる顔は……こう言っては何だけど、気持ち悪いぞ」


 「朝から辛辣ですな。ロッシュ村長、朝早くにすみません。実は、村長にお願いがあって参りました。本日、収穫祭を行いたいと思っております」


 収穫祭? 祭りか……久しく聞いてない言葉だが、血がたぎるな。しかし、今日か……ゴードンは祭りに準備がどれほどかかるか、知らぬのか? 夏の頃から準備せねば、間に合わないだろうな。それくらい、入念にしなければ、良い祭りにはならないだろう。


 「ゴードン。祭りを行うのは賛成だ。僕も収穫祭をしなければと思っていた。しかし、今日というのはいささか、性急過ぎないか? 」


 「ご心配無用ですぞ。準備は万端です。ロッシュ村長!! 実は、夏の頃より準備を重ねてまいりました。村人全員で、ロッシュ村長には内緒にして」


 「ゴードン。村の祭りについて、僕に相談がないっていうのは酷いのではないか? 僕は、村長だぞ。当日になった報告というのは、すこし度が過ぎると思うが」


 「め、滅相もない!! 報告が遅れたことは、平に謝ります。申し訳ありませんでした。しかしながら、この祭りは、村人全員からの村長への恩返しなのです。絶望しかなかった我々を、救ってくれたのは、他ならぬロッシュ村長なのです。その気持ちだけでも分かってください」


 僕は、ゴードンの言葉に胸が熱くなった。村人から、こんな風に思われて、何も思うなという方が無理がある。僕が、この一件については、不問にした。そう思ったら、祭りが楽しみで仕方がなくなってきた。


 「エリスも知っていたのか? 」


 エリスは、悪戯が成功したかのように、はにかんで笑っていた。エリス、かわいいな。そんな顔をされたら、許すしかないじゃないか!!


 昼過ぎから、祭りが始まった。旧都の焼け野原が、いつの間にか、整地されており、そこには、大鍋と今年採れた野菜が山のように積まれていた。村人の殆どが、ここに集まっていた。ゴードンが、司会役をやり、僕が挨拶をした。


 村人たちへの労い、収穫を祝い、来年の豊作と村の繁栄を願い、乾杯をした。この村には、アルコール度数がかなり低いが、麦で作った酒がある。数が少ないため、お目にかかることはない。しかし、僕は、祭りには酒が欠かせないと、ゴリ押しして、ゴードンから、酒蔵の鍵を強奪した。

 ゴードン、泣いてたな。よっぽど、大事にしていたんだろうな。


 酒蔵から出てきた酒樽を見て、村人たちは狂喜した。酒は飲めないと思っていた村人たちは、思い思いに木のコップに酒を満たし、満足するまで飲み続けた。エリスやミヤもさりげなく、飲んでたのを僕は見ていた。

 僕も飲めたら良かったのに……こっそりならと、酒樽に近づこうとしたら、ゴードンと村人に羽交い締めにされて、飲酒を阻止された。


 「ちくしょーー!! さっきの恨みをここで晴らすのは、ずるいぞぉーーー!! 」


 僕は、泣く泣く子どもたちと果実を絞った汁を飲んでいた。すっぱいよぉーー!!


 そのあと、楽器の演奏が始まり、皆、思い思いにダンスが始まった。自警団の連中が、女性に囲まれて、鼻をすごく伸ばしていた。羨ましくなんか、ないぞーーー!!


 僕はこの祭りで一体、何度、叫べばいいんだろう。こうなるんだったら、祭りを反対するんだった。僕が成人するまでは……。


 すると、酒の香りを漂わせた二人が近寄ってきた。エリスとミヤだ。二人が、僕に抱きつき、いろんなところを弄ってきた。今日の酒は、アルコールが低いから、相当飲まないと酔えないはずだよな……二人共、酒弱いのか? 僕は、二人に弄られて、理性が無くなりそうなのを必死に抑えながら、逃げ出そうとした……が、ミヤに掴まれて、動けない。なんて、力だ。こんなところで、ミヤの実力を肌で感じてしまうとは。


 僕は、無心の境地で、目をつむり、時間が過ぎるのを待っていた。


 「ロッシュ様、好きですぅ」


 「わ、わたしも、ロッシュが、すきですぅー」


 最初の声はエリスだよな。酔っていても、かわいい声だ。好意を向けられて、素直に嬉しがる自分がいた。しかし、その後のミヤの声が、なんか……嘘くさい。


 「ミヤ、お前、酔ってないだろ? 」


 最初は酔ったふりをしていたミヤだが、僕がじっと、ミヤを睨みつけていると、ついに、素面であることを認めた。


 「私が、これ如きの酒で酔う訳ないじゃない。私を酔わしたかったら、魔酒でも持ってきな」


 魔酒がなんなのかは、分からないけど、相当強い酒なんだろうな。ここでも作れれば……作れるかも。今年は麦が豊作だ。ジャガイモもあるから、麦を使っても大丈夫そうだな。


 「ミヤ、魔酒というのは分からないが、きつい酒なら作れると思うぞ」


 「ほんとっ!? 」


 ミヤってこんな興奮するタイプだったか? いつも冷静でいるのに。相当、酒好きなのか? であれば、僕と気が合うな。日本にいた頃は、かなりの数の酒を飲んだと自負している。僕は、日本一の酒好きだ。


 麦で酒造りと言えば……あれ、だよね。レイヤに酒造りの施設を作ってもらうか。


 こうして、祭りは、夜遅くまで賑わった。

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