魔の森と吸血鬼 前編

 ライル達が移住してくれたおかげで、やれることが格段に増えた。男手が必要な仕事と言うのは意外と多い。ライル達は、雑用でいろいろな家に行っては、仕事をこなしている。


 最近、南の魔の森が騒がしくなってきている。僕達の村の近くで、魔獣が目撃されるようになった。魔獣の共通することは、目が赤いことだ。白目も黒目も真っ赤。ちょっと、不気味である。どうやら、魔獣は魔力の流れを見て、生活しているらしく、目がその感覚器官のようだ。


 その魔獣が、出没しているとのことで、ちょっと村では騒ぎになっている。まだ、被害は出てないが、出てからでは遅い。この村と魔の森は、広大な平原を境に分断されている。僕は、境界線に3メートル程の壁を村を囲むように設置した。また、壁の上に人が立てるようにし、物見櫓も設置した。自警団を当番制で、配置してもらうことにした。


 これで一安心と思ったが、しばらくすると、飛行型の魔獣が目撃された。その魔獣がこちらに向かうとなると、容易に壁を乗り越えられるとの報告だった。

 僕は、エリスに、ライルを呼ぶように頼んだ。


 「村長さん。魔の森の事かい? 」

 

 僕は頷く。


 「オレも気にはなっていたが、今の所、打つ手がない状況だ。報告では、壁の1キロメートル手前までは近づいてくるが、それ以上は近づいてこないみたいだ。その理由がなんでかはわからないが……ただ、これからも来ないとは限らんぞ」


 「僕もそれは、思っていた。そこで、どうだろう。魔の森に調査をしに行くというのは……もしかしたら、何か分かるかもしれない」


 「村長さん。それは、いくらなんでも危険すぎやしないかい? 昔は、冒険者を雇って、魔の森に狩りに行ってた時もあったと聞くが……村には、魔獣退治が出来るやつはいないぜ。オレらの自警団でも命の保証はねぇぞ。」


 僕は悩んだ。確かにライルの言う通りだ。しかし、危険は目前に迫っているかもしれないのだ。今、手をこまねいて、後で後悔するよりも今、行動したほうがいい。


 「ライル、この村の危機が迫っているかもしれないのだ。頼む、僕に命を預けてくれないか? 」


 僕はライルに頭を下げた。


 「村長さん、頭を上げてくれ。そんなことをする必要はねぇよ。オレは村長さんが行けと言えば、行くんだ」


 話は済んだ。僕達は、魔の森に向かうための準備を始めた。今回は、魔の森の入り口周辺を探ること。なるべく、生息している魔獣を確認すること。少しでも危険が及びそうなら退避すること。これらを自警団に徹底した。


 このことについて、ゴードンにも説明した。もちろん、強く反対されたが、村のためだと諦めてくれた。


 数日後、僕達は出発した。魔の森の目の前までは馬で向かい、そこからは歩きだ。草原を馬で駆けている間に、魔獣は目撃されなかった。思ったよりも少ないのかもしれないな。


 魔の森を目前にして、一旦、ここで休憩を取ることにした。


 「村長さん、やっぱり魔の森って不気味なところだな。大木ばかり生い茂ってて、葉っぱなんて真っ青だ。風もねぇのに、揺れてやがる。」

 

 ライルって意外と臆病なのか?尻尾が、ピンと立っているぞ……


 「うむ。とりあえず、入り口だけ調査だ。自警団の何人かを斥候として送るが構わないか? 」


 「もちろんですぜ。オレの部下だが、村長さんの命令を聞かねぇ奴なんて、いませんぜ」


 なんか、随分と慕われたものだ。父上のおかげなんだろうな。


 数人を斥候として送り出し、しばらくすると戻ってきた。どうやら、何も発見できなかったみたいだ。これは予想外だった。出没報告から、森の外側に魔獣達が移動していると考えていたからだ。


 「意外だな。それでは、もう少し奥まで進んでみるとしよう……ライル、移動するぞ」


 僕達は、森の奥に進んでいった。足場は悪く、見たこともない気味の悪いキノコ、動く蔓、消化液を吐く植物など、様々な植物を見たが、動物の影が全く無かった。1時間ほど歩くと、少し開けた場所にたどり着いた。ここに拠点を構えよう。すると、遠くの方から鳴き声が聞こえてきた。


 初めて聞く声だ。森に木霊し、どっちの方角から聞こえたかもわからない……辺りを警戒させつつ、周囲を探り始めた。探り始めて2時間が経過した。一向に姿が掴めない。思ったよりも遠いところにいるのか?


 僕らは、思い切って、探索範囲を拡大してみた。更に、自警団を2つに分けて、探索を再開した。すると、僕達は、遠くに魔獣を捉えることに成功した。サイのような形をしている。しかし、遠目から見てもデカイ。周りの木と比較しても、高さ3メートルはあるだろう。家一軒くらいの大きさだ。


 僕達は、目配せをして、撤退の指示を出す。静かにその場を後にしようとしたとき、大きな足音をさせてしまった。距離が離れているから、大丈夫だろう……甘くはなかった。そのサイ型の魔獣は、咆哮し、こちらに突進してきた。その咆哮は凄まじく、僕らは、一歩動きを遅らせてしまった。魔獣の突進は、それは早く、みるみる僕達との距離を詰めていき、眼前まで迫っていた。


 僕は、風魔法でなんとか、魔獣を足止めすることに成功した。その隙に、団員を遠くに避難させた。魔獣は、足止めにも恐れずに突進をしてこようとした。僕は、強烈なかまいたちを魔獣に当てた。魔獣が真っ二つになり、断末魔を上げて息絶えた。


 なんとか……勝てたな。避難していた団員が僕のもとに駆け寄り、本来なら村長の盾にならなければならないのに、避難して申し訳ないと平謝りをしていた。


 「気にしなくていい。避難を命令したのは、僕なんだから。それに、これは僕の完全な油断だった」


 僕達は、その場から、拠点に向かおうとした時に、周囲から地響きがなった。どうやら、さっきの断末魔で魔獣を呼んでしまったらしい。僕らは、とにかく駆け出した。しかし、魔獣の足は早く、魔獣の群れに飲み込まれてしまった。僕は、必死にもがき、なんとか群れから抜け出すことに成功した。僕は、団員と離れ離れになってしまった……。


 どうしたものか……

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