新工房視察
レイヤに鍛冶工房を頼んでから、一ヶ月が経った。夏も真っ盛りで、暑さが和らぐ様子もない。暑いなぁ……エリスは相変わらず、ロッシュの用意したメイド服を着用しているが、汗でいろいろ透けて見えることがある。ちょっと、夏仕様の物を用意してあげたほうがいいな。
海の方も、海水浴客が増えてきている。宿泊施設は、連日満員だそうだ。皆から、喜びの声と共に、増築の嘆願も多数届いている。レイヤに頼む予定だが、今年は、増築が終わった頃には、涼しくなっているだろうから、やれるときでいいだろう。
朝食が終わった頃に、レイヤが訪ねてきた。エリスが冷たい水を用意していたのを、レイヤが一気に飲み干した。
「ふぃ〜。ありがとう、エリス。それと村長、おはようございます。朗報よ。ついに鍛冶工房が完成したんだ。是非、見に来てほしくて、今日は来たんだ」
この報告を待っていたんだ。ついに、この村にも鍛冶工房が出来たのか……思ったりよりも早かったが、何か仕掛けでもあったのかな? 考えていると……
「結構、早く済んだでしょ? それはね、旧都にあった鍛冶工房の設備すべてを移すことが出来たからさ。工房の建物自体は使い物にならなかったけど、設備や小道具なんかは、ちょっと修復するだけで使えることがわかったんだよ」
ほお、鍛冶工房なんてあったのか。旧都には結構足を運んだが、そんなのは見たことがないなぁ。
「旧都といっても、端っこのほうさ。人があまり済んでなかった地区で、今は、草に覆われて、旧都の面影も何もないよ。けど、カーゴが覚えていたから、探すことが出来たのさ」
それは見つからないわけだ。今日の予定を確認すると、工房の視察はできそうだ。エリスには、ゴードンを工房に連れてくるように伝え、僕は、レイヤと共に工房へ向かった。新工房は、村の外れに作られた。森の近くのほうが何かと都合がいいみたいだ。たしかに、薪を大量に使うからな。
ゆくゆくは、薪を炭に変えていきたいところだな。そうすれば、農具も新調することが出来るだろう。あとは、鉄か……。廃材の鉄もすべてインゴットにしたものの、少し心もとないな。
新工房の外観は新築だ。総レンガ造りで、この村では一番立派な建物かもしれない。中に入ってみると、まさに鍛冶工房という内装だ。まだ、火は起こされていないが、立派な炉が設けられていた。結構、大型だな。これなら、大きな道具も作れるだろう。
工房には、住居部も併設されており、住居兼工房といった感じだ。なるほど。外から見て、工房だけの割にでかいと思っていたが、住居も付いているなら納得だ。住居部の内装も、旧都から引き上げてきたものを再利用している。カーゴもかなり気に入ってくれたようだ。
ほお、弟子用の部屋もあるのか……僕の言ったことを覚えておいてくれたか……
「大変素晴らしい作りだ。旧都の工房を使うのは、いい案だったな。これなら、すぐにでも、工房として機能することが出来るだろう。しかし、少し待ってもらいたいな。薪や鉄の関係で、すこし調達が遅れそうだ。だから、今は農具のメンテナンスや、鉄製品の補修などを中心にやってもらいたい。それと、外に畑を作っておこう。今まで、畑作業をやっていたのだ、急には畑から離れられんだろ? 」
カーゴも新工房が出来たことで一安心している。それと、これからの仕事に並々ならぬ熱意を感じた。
ゴードンとエリスが、遅れてやってきた。
「ロッシュ村長、どうやら遅くなってしまったみたいですな。いやぁ、年は取りたくないものですな……エリスさんに着いていくのが精一杯で……おお! これが新しい工房ですか! いやぁ、素晴らしい!! 」
ゴードンも喜んでくれたみたいだ。
「ゴードン、聞きたいことがあるんだ。この辺りに、鉄が取れる場所はないか? 」
工房があっても、鉄がなくては、何も作れない。商人の往来がない今、自前で調達する以外、方法がないのが、頭を悩ませる。
「ん〜あるには、あるんです。以前の石灰岩を採掘したところより、更に北にある山に鉄の採掘場があります。しかし、そこには、山賊達が住み着いているという、噂を耳にしたことがあるんです」
山賊か……村人を連れていくのは、ちょっと危険だな。僕だけだったらなんとかなるが……少し危険だが、調査にいくか……
「ロッシュ村長。一応、言っておきますが、一人で行こうとなさらないでくださいね。鉄が必要なのは、私にもよくわかります。行くのなら、戦闘が出来る村人を何人か連れて行ってください。彼らが、村長の盾となるでしょう」
ゴードンに先を読まれてしまった。しかし、ゴードンの言うことは尤もだ。僕は、しぶしぶ頷いた。雰囲気が少し重くなってしまった。しかし、この雰囲気なら……
「レイヤも、よくやってくれた。度々、済まぬが、次の仕事を頼みたい……」
僕は、レイヤをすこし酷使し過ぎな気がしていたため、すごく躊躇していると、
「何、気にしているんだよ。村がどんどん良くなっていることに、あたしが役立ってるって思うと嬉しいんだよ。どんどん、仕事を回してくれよ」
レイヤは本当に村のために仕事をしてくれている。そうだ、以前言っていた、食事に誘うことにしよう。
「ああ、助かるよ。前に言っていた食事を今夜、どうだい。そのときに、仕事の内容を説明するよ」
レイヤが少し動揺しているように見えたが、すぐにいつものレイヤに戻った。
「今夜とは、随分急だね。まぁ、村長のお誘いだ……断るわけにはいかないね」
カーゴがこのやり取りを見て、ニヤニヤしていたが、僕がカーゴの方を向くと、真顔に戻った。
「カーゴ、これから、この工房で頼むぞ。村の鍛冶は、君が一手に引き受けることになる。今後は、目が回るほど忙しくなるだろうから、それまでに腕をあげておいて欲しい。それと、雑用をさせる弟子を探しておくといい」
カーゴが深々と頭を下げていた。彼女なら、工房を任せても大丈夫だろう。僕達は工房を後にした。皆と別れ、エリスと共に屋敷へと戻っていった。
その後のレイヤとの食事は、それは楽しいものだった。レイヤのいつもと違う服装に、僕はドキドキしながら、会話を楽しんだ。エリスも、レイヤと一緒にいると楽しそうに笑っていた。
皆がこうして、笑っている時間を作っていきたいと思った。
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