山賊と採掘場 前編

 レイヤには、食料を保存しておく倉庫を作るように依頼した。湿気対策も考えて、土塀と漆喰を施した建物にしてもらう。これで、秋に収穫したものを長く保存することが出来るだろう。


 北の山の鉄の採掘場を調査するための調査隊を結成することになった。僕を入れて、全部で5人となった。いわゆる少数精鋭。武器は、短剣を持たせ、簡単な防具もつけてもらった。村にあったものだが、どれも錆びたり、劣化したりしていたから、補修をする必要があったけど。鍛冶工房のカーゴのおかげで、短時間で終わらせることが出来た。


 最初、ゴードンも行くと譲らなかったが、なんとか止めた。最近は、若者にはついて行けないと、愚痴ってたから、とても連れていけないよな……。今回は、エリスもお留守番だ。一揉めしたけど、なんとか、押しとどめることに成功した。


 なんか、出発前から疲労感が……


 北の山までは、ここから20キロほどの距離だ。2日ほど掛けて向かう。往復4日の旅程だ。食料は、各々運んでもらうことにした。荷馬車とかがあれば、まとめて運ぶことが出来たが……やっぱり、馬や牛と言った家畜が欲しいな。野良馬とかいないかな……。


 調査隊の4人は、皆女性だ。村に男性がいないというのは、本当に困りものだ。あと、5年もすれば、成人する男性がいるが、今は子供だ。戦力として考えるわけにはいかない。しかし、女性と言っても、亜人だ。筋力も俊敏性も人間の同性に比べると、圧倒的に優れている。さらに、狩りなどで森での行動を理解している。


 この部隊の決定的な弱点は、対人戦の経験値のなさにある。なるべく、途中で、動物を狩るなどで、集団行動の練度だけは上げておきたいところだ。何も策を打たないまま、全滅などあってはならない。やれることはやっておこう。


 今回の目的は、鉄の採掘場、山賊の存在とその規模、を調査することだ。


 早朝、僕ら5人は、村人に見送られながら、出発した。最初は街道を西に向かい、途中から北に方向を変えて、山に向かっていった。北に向かい始めてからは、ずっと、森の中だ。方向を間違えないように注意しながら、突き進む。今日は、とにかく移動する。出来るだけ、距離を稼ぎたい。


 途中で、獣が現れたので、これ幸いと、連携をとりながら、獣を仕留めた。さすがに、狩りを本業としているだけあって、狩りはお手の物だった。その後の処理も手際が良かった。村から食料を持ち出したとはいえ、十分な量とはいえなかったので、食料が増えたのはよかった。その夜に、さっそく、獣の肉を焼いて食べた。


 ん〜……旨くないな。塩があるだけマシか。他の村人は、美味しそうに食べていた。口の周りを脂でテラテラさせながら食べる光景は、ちょっと新鮮な感じだった。こういうワイルドな感じの女性って周りにいないもんな。


 次の日も早朝から活動を開始した。朝から肉は辛かったが、残すわけにもいかず、頑張って食べた……ちょっと、胃がもたれたな……


 段々に勾配がきつくなり、山に近づいてきたようだ。採掘場も近くにあるはずだ。今のところ、山賊の影もなく、獣に警戒しながら、歩き続けた。斥候をしていた村人が戻ってきた。すごい報告をもたらした。


 「村長!! 見つけました!! 」


 採掘場はまだ先のはず。となると、山賊を発見してしまったのか。僕は、他の村人に武器を構えるように指示を出す。ここからは、逃げることを前提に行動に移さなければ……


 「ち、違います。山賊じゃありません。馬です! 馬が群れでいます」


 僕は、耳を疑った。馬、だと⁉ そんな、うまい話があるわけがない。すぐに、案内してもらうと、馬が30頭ほど群れていた。ここは、村から15キロほどの場所か。どうしたものか……。村に報告をするか。この人員だけでは、馬の確保は不可能だ。


 引き返すか……しかし、ここまで来て、引き返すのも躊躇した。採掘場までは目と鼻の先だ。まずは、採掘場を確認した後で、引き返してくるのがいいだろう。どうせ、今は何もできないし、戦力を減らすわけにもいかない。


 馬は敏感な動物だ。静かにその場を後にした。採掘場への移動を再開した。山賊もいるとすれば、そろそろ痕跡を見つけることが出来るだろう。慎重に移動し、昼を過ぎた頃、採掘場のような場所を見下ろせる場所に辿りついた。


 山肌が削られ、洞窟が出来ていた。ここからでは、どこまで続いているか、皆目見当もつかない。もっと近づく必要がある。山賊の気配もない。


 慎重に、洞窟に近づくと、真っ暗だが深く掘られている感じがした。洞窟の入り口には、何もなかったため、少し奥の方に行くと、いくつか石が転がっていた。触って、確かめると……鉄鉱石だ。ここは、間違いなく、鉄の採掘場のようだ。


 皆に、それを伝えると、大はしゃぎして喜んだ。僕も一緒にね。今回はここまででいいだろう。十分な成果だ。


 帰りに馬の群れがいた場所をもう一度確認して、村に帰ろう。すると、外で待機させていた村人が僕のもとに駆け寄ってきた。


 「村長、何者かがこちらに近づいています。それも、相当な人数がいるようです」


 くっ……油断した。しかし、痕跡も何もなかったのに、ここまで近づくまで気付かなかったなんて……向こうは手練か……こっちはかなり不利だ。しかも、洞窟を背にしているから、逃げ場もない。ここは、迎え撃つしかないようだ。


 他の村人に、迎え撃つ準備をさせ、僕は、いつでも魔法が使える準備をした。すると、向こうから、一人の男がこっちに向かってきた。フードをかぶり、その間から、長いボサボサの赤い髪、髭も伸び放題で、顔の表情も年齢も読み取ることが出来ない。ボロボロの服を着ているが、見えるところすべてに傷跡があり、鍛え抜かれた体であることは一見して分かった。

 男の背後の森には、数十人はいるだろう男たちが、弓をこちらに構えていた。どうやら、この赤髪の男が、この山賊たちのリーダーのようだ。


 これだけの弓に囲まれては、村人を無傷で逃がすことは難しいだろう。魔法を使うか……しかし、人を傷つける……いや、殺すのは……。くそ……悩んでいるときではないのに……

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