Ep.5 ウタ

 どうして?


 また一人。


 自分のせい?


 いや違う。


 あいつのせいだ。


 何故邪魔するの?


 いいところだったのに。


 失うの?


 ……嫌だ。


 そんなの耐えられない。


 誰のせい?


 ……あいつのせいだ。


 あぁ、あいつが憎い。


 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い……。


「大丈夫?」


 不意に声がした。


 周囲を見渡すが、誰の姿もない。


「こっちよ」


 また声がした。


 よく耳をすますと、声は神社の方から聞こえてくる。


 そういえば、いつの間にこんなところまで来てしまったのだろう?


 どうやら無意識のうちに神社まできてしまっていたようだ。


「悩みがあるなら聞くわ。こっちへいらっしゃい」


 三度みたび謎の声。


 その甘い響きにいざなわれ、境内へと続く階段を上る。


 しかし、本殿に着いてもそこに人影はなかった。


「あら、存外早かったわね。私はここよ、ここ」


 例の声だ。


 さっきよりはっきり聞こえる。


 どうやら本殿脇にある小さなほこらからするようだ。


 試しに近づいてみる。


 よく見ると、そこには沢山のお札が貼られている。


「辛いことがあったのでしょう?苦しくて堪らないのでしょう?私ならあなたの望み、全て叶えてあげられるわ」


 例の声は言う。


 呆れた。


 そんなに都合のいい話などあるはずない。


「それがあるのよ。私、神様だから♪」


 見透かしたような口ぶり。


 声はやはり祠の中から聞こえる。


 少しの間、空を見上げた。


 そこにはただ青々とした虚無が広がっているばかり。


 -もう、どうにでもなれ。


 そう思った。


 もしかしたらあの時からそう思ってたのかもしれないけど。





 結局、あの頃のまま。


 何も変わらない、変わらない自分が嫌になる。


 けれど、その想いを振り払うことができぬまま地獄への門を開く。



 **



 時刻は宵時よいどき

 神社一帯では時折、こんな歌が聴こえるのだと言う。


 よいよいこよいもまいごがひとり♪

 えんえんないててまあたいへん♪

 わたしのちからでたすけてあげましょ♪

 だからかわりにおいのちちょーだい♪



 -第二章 完-

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キミの心は何色? Oto猫 @OtoCat96

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