Ep.4 まっクロ
「……はい、ではまず体育祭の実行委員長を決めたいと思います。誰か立候補する方はいませんか?」
「俺やります」
「おーいクロ!探したぞ!」
「ん?なんだ?俺は体育祭関係で忙しいんだよ」
「その体育祭関係だよ。十継先生が書類に名前書いとけだってさ。しっかり伝えたから、んじゃよろしくー」
「あー?マジかよめんどくせー。ま、あとでいいか。それよりも計画の方が先決だ」
**
突然だが、俺は今恋をしている。一目惚れってやつだ。そして近いうちに告ろうと思う。俺が最初に彼女に目を奪われたのは入学式。新入生代表として凛と佇むその姿に見惚れた。翌日、俺は彼女に近づくべく、捜索を始めた。しかし、うちの学校は大きい。見つけるのに少し手間取ってしまった。学園のシンボルともいえる大きな桜の木の前に、彼女は立っていた。
「はぁ、はぁ、……やっと見つけた。どうやら1人みたいだな。っし、ラッキー♪」
俺は早速木に向かって走り出した。遠くからでは分からなかったが、よく見ると服は少し汚れ、胸に黒猫を抱いているようだ。それに、桜の木の上を見上げている……?一瞬、俺の中に疑問符が浮かんだが、すぐに思い直して彼女に声をかけようとした。
「おーい、七崎さ……」
「ったく、どうしたってこんな無茶するんだ?」
俺の声は、別の男声にかき消された。その刹那、俺は無意識に近くの物陰に隠れていた。
-ヤツは誰だ?
少し距離があるため、途切れ途切れにしか聞こえないが、その男は彼女と親しげに会話をしているようだった。恋人か?いやでもあの感じ、そうは見えないが……。あれこれ考えても仕方ない。直接彼女に聞けばいいことだ。意を決し、男が立ち去りかけるところを見計り彼女の元へ。
「……なんだよ、それ」
しかしこの日、俺と彼女との距離がこれ以上縮まることはなかった。
何故なら彼女が、その凛とした美しい容貌と聡明さを兼ね備えた七崎白羽が顔を仄かにに朱に染め、その評判に似つかわしくない、優しい微笑みを浮かべていたのだから。
**
それから俺は七崎のことを徹底的に調べ上げた。彼女の性格・過去・例の男。調査の結果、ヤツとは何も関係ないと知り、ようやく気持ちに落ち着きができた。そうと分かればあとはだ。
俺は自ら体育祭の実行委員長に名乗りを上げ、七崎と話す機会を作った。
最初、向こうは警戒しているようだった。しかし、何度も会話するうちに軽い雑談をするくらいの仲にはなれた。俺はそれが嬉しかった。だからしてしまったのだ。
俺は-
体育祭当日。
俺はタイミングを見計らい、彼女を校舎裏に呼び出した。
「休憩中悪いな、七崎さん」
「いえ、別に構わないわ。それで、話って何かしら?」
「あーそれなんだけどさ」
「?」
「あーもうらしくねぇ!この際だはっきり言っとく!……ふぅ。七崎さん、あなたのことが好きです。俺と付き合って下さい!!」
「えっ……」
「一目惚れだった。入学式で初めて君を見た時、気づいたら心を奪われていたんだ。それからこうして体育祭関係で会うようになって。実際に話してみて確信したんだ。やっぱり七崎さんって俺の思った通りの人なんだって!……俺はいつもクールで凛と佇む君が好きだ!」
「……ごめんなさい」
「えっ?」
「あなたの気持ちには応えられないわ。それじゃあ」
「……一条色葉」
そう呟いた瞬間、彼女の動きが固まる。
やっぱりそういうことか。
「……彼がなんだというの?」
「彼のこと、どう思ってんのかなって」
「……別に、ただの友人よ。それだけ」
「ふぅん。それだけ、ね」
「とにかく、そういうことだから。ごめんなさい。それと、さようなら」
「……ならなんであんな顔するんだよ」
徐々に小さくなる背中に向けてそう呟く。ヤツのことを話す彼女の顔は天使のようだった。
「一条色葉か……」
そうか、アイツがいるからいけないのか。アイツがいるから俺の恋は届かない。なら話は簡単だ。
**
体育祭が終わって数日後、五味黒亜は覚悟と決意を胸に、その場所へと向かう。
天気は急変、雨が降り始めた。
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