第三話 Imitation
「働かざる者食うべからず」
先人らはとんでもない言葉を残してくれたもんだ。これこそ現代日本が抱える闇。近年改善されつつあるとはいえ、制度改革にはまだまだ時間がかかりそうだ。頑固な人とかいるからなぁー。特に頭のお堅いご年配方とかネ!「むかしは〜」とか知らん、今は今なんだよなぁ。
ところで、中には誇るべき過去人もいる事を忘れてはならない。
「やらなくてもいいことはやらない。やるべきことは手短に」
はぇ〜!事勿れ主義かっけぇー!!これぞ俺の基本スタンス。○○パイセンまじリスペクト!
高校生活始まって早一年ちょい。文字通り「影」としてひっそりと過ごしていくはずだった俺の平穏は終焉を迎えた。だからといってスタンスは変えないかんな!
要するに、やるべき事が山積で面倒いのだ。
**
アクティ部結成の翌日。結成を祝してパーっと宴を催したい気持ちも分かるが、俺はこの部に関して少し言いたい事があった。という訳で、折衷案としてカラオケで今後の部について語らう事になった。
「だから俺は普通に教室で……」
「うちオレンジジュース頼も♪イロは何にするー?」
「や、俺の話を聞け。あとその呼び方やめて」
「もー来ちゃったんだから歌うしかないでしょ?それと一条って呼びにくいからいーでしょ別に。さ、飲み物選ぶ選ぶ!」
「いや連れてこられたんだけどな?……カ○ピスで」
「いーからいーから♪へぇーカ○ピスねー」
「何だよ」
「意外だなぁーって」
「何でもいいだろ、別に」
「ふぅ〜ん。ね、シロは何にするー?」
「し、シロ!?それって私の事かしら?」
「ん、そうそう!あれ、呼ぶの初めてだっけ?『白羽』だから『シロ』!ダメ……かな?」
「いえ、嫌という訳ではなくて。私その、今まであだ名で呼ばれた事がなくて、それで……。少し、驚いてしまったの。『シロ』ね。うん、それでお願いするわ。でもあだ名で呼ばれるのって何だかこそばゆいのね」
「あー確かにそうかも!じゃあこれからは『イロ』と『シロ』って呼ぶね!よろしくっ!……ってあれ?てかまだみんな自己紹介してなくない!?」
「そういえばそうだったわね。じゃあとりあえず最初に一人一曲ずつ入れて、自分の曲の前に軽く自己紹介をしましょうか」
「……は、何その地獄絵図!?自己紹介はまた今度でいいだろ。それよりも今後の部活動についてだなぁ……。あと俺はそのあだ名許可してねーぞ」
「後で後でって、そうやって先延ばしにして忘れさせるつもりでしょう?こういうのははじめのうちにやっておく何かと都合がいいものよ。『後でとお化けは出たことがない』って言うでしょう?」
「分かった分かったそうしよう。じゃあ一通り終えたらみっちり話し合いするかんな」
「オッケー☆じゃあそうと決まれば早速始めよっか!一番、三上彩音歌いまーす!桜音学園二年一組。好きな食べ物はご飯とお味噌汁!って何その意外そうなリアクション!……趣味はいっぱいあるけど、一番は料理!実は弟と妹がいる長女です。それでは聞いてください、『マ○ーゴールド』」
「うん!久々のカラオケってやっぱ気持ちいい!はい、次!えーっと『雪の○』って今五月!入れたのは……」
「私よ。んんっ。七崎白羽、二年三組。好きな食べ物はラーメン……ってその顔はどういう意味かしら?最近は編み物にハマってるわね。それと姉が一人いるわ。……それでは、歌います。」
三上は普通に歌上手かったし、七崎の声は透き通っていてこちらも良かった。さて話し合いに移ろうか……おい、何だその目は。待て待て分かったから勝手に曲入れるな!
「……
いやーカラオケのオープニングナンバーといったらコレだよな!さっすがなぎ様、いい曲歌う〜♪ライブでも一番最初は絶対『春○き』だかんなー。合いの手入れやすいのがイイよな!「雪の下!」とか叫んでみ?ファンのみんなと一つになるあの感じ。たまらんわ〜。先月のライブ最高だったなぁー。次のライブ早よ早よ。あー気持ち良く歌えた!さぁ話し合いするかー!あれ?なんか皆さん固まってない?
「ちょっ、聞いてないんだけど!?」
「いや今更何言ってんだ?さっきから話し合いをしようって言ってるだろーが」
「その事じゃなくって」
「ん?」
「イロ歌上手すぎでしょ!?めっちゃ鳥肌立ったし!」
「一条くんにそんな才能があったのね。素晴らしい歌声。感動しました」
「大袈裟だお前ら。週二〜三でヒトカラ行ってるやつは大体こんなもんだって。いいからさっさと話し合いを……」
「ねぇこれ歌ってよ!」
「これも歌ってみてほしいのだけれど」
「……お前らな」
この後結局十数曲歌わされた。
**
「おい、これは貸しだからな」
「うん、ごめん。つい舞い上がっちゃって」
「私も浮かれてしまったわ。本当にごめんなさい。その、話し合い……始めましょうか」
「あぁその事なんだが、まずは今後の活動計画だな。直近で言うと、来月末に体育祭がある。そこで運営の手伝いと、終わった後の清掃業務を最初の活動にしたいと思ってる」
「へぇー後片付けまでやるつもりなんだ」
「それは確かにいい考えね。近年体育祭後に出たゴミの苦情が学校に殺到していると聞いたわ」
「そうだ。運営の手伝いに関しては実行委員がいるからどこまで出来るか分からんが、そこは生徒会と交渉してみる。清掃の方は、出来たら有志のボランティアを募って活動したい」
「そうね。私もそれがいいと思うわ。今後の活動資金……部費についてはどうしましょうか?」
「とりあえずうちの部は出来たばっかで日が浅く、実績がない。そこで今回みたいにコストがかかりにくい活動から始め、学校や生徒会に認めてもらうしかないな。今回生徒会に掛け合うのも、彼らとパイプを持つ意味合いもある」
「ふぅーん。ねぇ思ったんだけど、イロってめちゃくちゃ頭良くない!?なんか凄く色々考えてるし」
「いや別にそうでもない。七崎はなんか意見あるか?」
「そうね、私も概ねあなたの考えに賛成よ。非常に上手くまとまっていて良いと思うわ。ただ生徒会が協力的かどうかは分からないし、有志確保は難しいと思うの。あまりこの部に良い印象を持つ人がいないと思うから」
「あぁそれはどうにかしなきゃな。とりあえず現段階での方向性はこんな感じで良さそうだな。まぁ、今日はここでお開きって事で」
「そうだね。いやー今日は凄く楽しかった!やっぱりみんなでワイワイっていいね♪またいつかやろうね。いつか絶対、ね?」
「そうね、私も久しぶりにとても充実したひと時を過ごせたわ。ありがとう。これからもよろしくお願いします」
「ん。じゃ帰るわ。さよなら」
「うん!イロまたねー!あとウチの事は『アヤ』って呼ぶんだぞー!」
街中で叫ぶな。カラオケ店を出ると、外はすっかり暗闇に包まれていた。別れを言い終え、帰路に就こうとすると、誰かが小走りに近づいて来た。
「あの、一条くん。ちょっといいかしら?」
七崎は少し息を切らしていた。
「どうした?」
「あ……」
「あ?」
「あ……アクティ部の顧問って十継先生よね?」
「あぁそうだが」
「部編成の日に教室に来て、そしたらいつの間にか顧問になってた。私、別にお願いしていないのに……。一条くん何か聞いてる?」
「別に何も。まぁ十継先生は面倒見がいいから適任じゃないか?それともあの人は嫌いか?」
「そんな事はないけれど……。ごめんなさい、さっきの話は忘れて。私の杞憂だったみたい。さようなら、その、えっと…ま、また明日ね」
「ん、あぁ」
最後何か言い淀んだようだったが、気づかないフリをした。小さくなっていく姿を背に、俺は今度こそ歩き出す。
「あー俺何してんだろ」
呟いた言葉は誰の耳にも届く事はなくて。鞄から紙パックを取り出す。今日のいちごオ・レは何故か味がしなかった。
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