第二話 アクティ部!!!

 落ち着かない。今日はずっとソワソワしている気がする。周囲からの視線が痛い。


 部活動紹介から二日。あの一件以来、周りの私に対する目に多少の変化が起きた。それでも大幅に変わらずに済んだのは彼のおかげに他ならない。寧ろ非難の矛先は彼に向いているように思える。彼が声を上げていなければ私は今度こそ、完全に壊れていただろう。クラスのある一点を見る。そこにはいつもと変わらぬ彼の姿があった。


今日は部活動編成当日。同時に『アクティ部』創設期限の〆切でもある。


**


 視線に棘がある。いやありすぎて薔薇ちゃんもびっくりするレベル。何ならハリセンボンも驚く。いやあっちは針か。吉本の方は……やめよ。目線、チクチクいやらしいな。そういうのは本人が知らないところで勝手にやってくれ。嫌いなら無視してくれ。俺はお前らに興味ないから。


 全く、これじゃと何も変わらないな。今回こそ平穏な学生生活を送れると思ったんだけどなぁ。


**


 放課後。各部に属する生徒たちはそれぞれ事前に割り振られた教室へと向かう。『アクティ部』(正式にはまだ「部」ではないけれど)入部希望者は旧校舎三階、最奥の空き教室に集合する事になっている。


 重い腰を上げ、教室を出ようとする。ホームルームは少し前に終わり、他クラス他学年の生徒が次々と入ってくる。確かここ二年三組はサッカー部の入部希望者が使用する予定のはず。やはり人気が高いようだ。どのクラスからも一番遠い空き教室。そこに一人で終わりを待つ自分の姿が脳裏にチラつく。それを振り解くように、私は足早に目的地へ向かう。


**

 

 すぅー、はぁー。


 もう何度目かの深呼吸。そろそろ覚悟を決めなければ。そう思ってどれほど経ったのだろう。あぁ、また水が飲みたくなってきた。ドアの前で固まる。この時私の頭の中は『アクティ部』の事で埋め尽くされ、人の気配に気づけなかった。


「何してんの?」


「……えっ?」


 長く伸びた腕がドアに手をかけ、前が一気に開かれる。


「ほら入るぞ」


「……えぇ」


 彼と交わした二度目の会話だった。


**


 ……気まずい!いや自分で撒いた種なんだけど。永らく女子とまともに会話してないとこういう時どうすりゃいいのか分からん!マジで!空き教室に二人きり。あっそうだ!今こそだ!


 ちゅー


 俺は鞄からいちごオ・レを取り出すと、一息に吸い込む。その点やっぱいちごオ・レってすげーよな。最後まで甘ったるいいちご感たっぷりだもんなぁ。……頼む、誰か早く来てくれー!


「……ねぇ」


 沈黙に耐えかねていると、彼女から話を振られる。


「何だ?」


「ここにいるって事は、『アクティ部』入部希望って事でいいのよね?」


「あぁ、そう捉えてもらって構わない」


「入部動機を聞いてもいいかしら?」


「それは……」


 俺が言い淀んでいると、教室のドアが開いた。


「はぁ。ようやく着いた。あなたたち揃ってる?ん、大丈夫そうね。にしてもここ遠すぎなのよ!」


「十継先生……?っ!いやこれはその、……もう少しだけ、待ってもらえませんか?後一人、後一人なんです!」


「ん?七崎、何か勘違いしてるわね?私は別に『アクティ部』を潰しに来たんじゃないわ。、よ」


「それってどういう……」


「そのままの意味よ?」


「でも人数が一人足りなくて……」


「いや、そうでもないんじゃないか?」


 俺はそう言って、ドアの方に視線を向ける。やがて微かに廊下を走る足音が聞こえてきた。それは次第に大きくなり、この教室の前で止んだ。


「おっ、来た来た♪ほら、三人いるじゃない」


 そこには盛大に息を切らし、膝に手をつきながら息を整える少女の姿があった。明るめなブラウンショートヘアが揺れる。


「はぁ、はぁ、はぁー。んんっ。えー初めまして、三上彩音みかみあやねです!えと、あ、あー『アクティ部』!に入部したいです!よろしくお願いします!」


 アクティ部はこうして誕生した。




 俺たちの物語はここから始まり、そして同時に終わりを迎える。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る