第七話 「加藤班、現場へ」

「黛ぃ、ホンは読んできたかぁ?」

「あたしをなんだと思ってるわけ? これでも女優なの。ところで持ち歌、歌うシーンがないんだけど?」

「あとから編集でぶち込んでやるよ! って、おい! センセーさんよ、荷物の搬入まだか!?」

「これでおしまいです!」


 早朝のプロダクションビル。

 慌ただしく荷物を詰め込みながら、風太たちはバンに乗り込む。


 乗員は四名。

 衣装であるゴシックドレスの上にコートを羽織った希歌。

 厳つい顔に、さらに厳ついサングラスを乗せた保。

 メイクをしていない風太と。

 カメラマンの田所たどころ所在しょざい


「全員いるな? 出発!」


 保のかけ声をきっかけに、駐車場からバンが滑り出す。

 目指すは県境にあるという、とある町だ。

 高速に乗ったあたりで、保が口を開いた。


「確認しとくがね、センセー」

「橘で」

「じゃあ遠慮無く橘センセー。アンタぁ、俺たちの仕事を何処まで把握してる?」


 何処までと言われれば、希歌から聞いた範囲ということになる。


 彼らは制作プロダクションの、映像部門に属している。

 そのなかでもとくに、ユアチューブ向けホラー映像を担当しているのが、加藤保のチームだ。


「チームといってもね、女優はあたしだけ。田所ちゃんは他のチームと兼業だし、カメラだけじゃなくて照明もひとりでやるし」

「普段は観光名所のプロモとか作ってるッス。ネクスト永崎タワーも、プレオープン前の先日、撮影したッスよ」


 丹念にカメラのチェックをしながら、所在はサムズアップを見せる。

 希歌はうんうんと頷き、


「編集とカメラマンとしては、超絶優秀だから、田所ちゃんは。逆にそれで忙しいから、時々風太くんみたいなバイトの子が荷物持ちとかADやってて、ナレーターとアナウンサーもあたしがやるっていう……すっげぇ小さなチームなんだけど」


 最後だけため息とともに吐き捨てた。


「撮ってる映像は、いわゆるオカルト動画ね」


 世界的な動画投稿サイト〝ユアチューブ〟には、カテゴライズもできないような雑多な動画が溢れている。

 加藤チームのつくるオカルト動画も、そのうちの一ジャンルだ。


「プロレス的なって、但し書きがつくッスけどねぇ」

「一言余計だぞ田所ォ!」

「いいから前見て運転してよ、カトーさん! あぶないでしょうが」


 ノートパソコンとカメラの接続を確かめる所在が軽口を叩き。

 保がそれを怒鳴りつけ、希歌は悲鳴を上げる。


 怒号の飛び交う車内は、なんだか賑やかで。

 風太の口元にも、かすかな笑みが浮かんでいた。


「まあ、そういうチームだ。センセーも、いまからはチームとして働いて貰う。真実か嘘っぱちかはどうでもいい。視聴者がガーっと盛り上がるような面白れぇ映像を撮る! それが俺のチームだ」


 なるほど。

 それで、本当のところは?


「これまでにない絵を撮って、がっぽり収益を稼ぎたい! あわよくば映像単体でメディア化して売りたい!」

「カトーさんのこの辺の正直さは、アンタも見習うべきじゃない、風太くん?」


 なるほど、だいたい解った。


 とにかくこのチームは、ひたすら突っ走る保と。

 マイペースな所在と。

 ふたりの仲立ち、舵取りをする希歌で成り立っているのだろう。


 だとすれば、自分は──とか。

 少し考え込んでいる間に、バンは高速を降りていた。


「あと一時間ぐらいで目的地に着く。橘センセーには不在だったアシスタントの変わりをやって貰うから、覚悟しとけよな」


 覚悟しておけ、とは。


「なんせまずはぶっつけ本番──被害者遺族への突撃取材からやって貰うからな」

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